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【見学】農口酒造(石川・能美) - 新生・農口、”人が”醸す酒の魅力。「俺は日本一の酢をつくるために、日本一の酒を造りたいんだ」

思いがけず、農口酒造を見学する機会に恵まれました。伝説の名杜氏、農口尚彦[のぐちなおひこ]氏は既に引退(再引退)されていましたが、後任の渡辺忠杜氏が快く蔵内を案内してくださいました。数々の拙い素人質問にも丁寧にご回答くださり、頼れる親分肌のお人柄に触れて、「酒の魅力は醸す人にある」ことを再認識しました。

日時:2016年3月17日(金) 13:50頃~
場所:農口酒造(石川県能美[のみ]市末寺町イ42)
内容:見学(ガイド付き)、試飲
料金:無料
URL:http://www.noguchisyuzohonke.com/

★突然の出会い
160317 (8)農口酒造_外観
高知県の病院でお世話になった友人と5年ぶりに会う為に、石川県の能美市を初めて訪れました。愛媛県から来た友人の車の助手席で車窓の景色を眺めていると、突然、この風景が目に飛び込んできました。
160317 (10)農口酒造_外観2
能登杜氏四天王のひとり、農口尚彦氏の名を冠した酒蔵、”農口酒造”。
なぜ、こんなところに!!(私が知らなかっただけですが...)

農口山廃純米
農口尚彦氏(1932生)は「菊姫」や「常きげん」の蔵で活躍した伝説の名杜氏で、全国新酒鑑評会では金賞を27回(12年連続)も受賞しています。80歳を迎えるにあたって一度は杜氏を引退しましたが、自分には酒造りしかないと思い直し、2013年の秋に現役復帰されました。その際に身を置かれた蔵がこの農口酒造です。
150928 (4)寺島なす餃子講座_奥戸
農口杜氏が醸す山廃純米は個人的に好きなお酒のひとつです。今年初には四合瓶を6本ほど買い込み、ちびちび楽しみながら、自身の講座でも紹介してきました(写真は、東京都墨田区の伝統野菜”寺島なす”を使った餃子を楽しむ会で使ったテイスティング・アイテム。同区に本社があるアサヒビールが取扱う海外ビールに加え、餃子の個性に負けない日本酒などを選びました)。
みちば_農口
農口の山廃純米は、母の誕生日会に銀座の「懐食みちば」で飲んだ思い出の酒でもあります(この見た目にも涼しげなサービスにより、濃醇な無濾過生原酒をキリッと爽やかに楽しむことができました)。

「もしかしたら農口杜氏に会えるかもしれない。この機を逃したら二度とチャンスは訪れないかもしれない」と思い、友人に無理をお願いして時間を取ってもらい、酒蔵の門をたたきました。

160317 (13)農口酒造_事務所
事務所らしき建物へ赴くと、貫禄のある男性が対応をしてくれました。
早速、農口杜氏の所在を伺うと、彼は昨酒造年度でふたたび引退したとのことでした...

伝説の杜氏に会えるかもという期待が膨らんでいただけに、この瞬間は正直、がっかりしました。
しかし、応対してくれた男性が蔵を快く案内してくださり、数々のお話を伺ううちに、すっかり「新生・農口」の虜になりました。
この方こそ、農口酒造を立ち上げた時の社長であり、農口杜氏とともに酒造りを行い、彼の引退後に蔵の指揮をとっている渡辺忠杜氏でした(農口杜氏に復帰を呼びかけ、休眠していた山本酒造を取得して農口酒造を立ち上げました)。

★良質の原料を仕入れる力
160317 (27)農口酒造_山田錦
160317 (26)農口酒造_愛山
「良い酒造りは、良質な米を選ぶところから始まる」
当たり前のようですが、誰もが良質な米を入手できる伝手を持っているわけではありません。
農口酒造では、酒米の王様”山田錦”や、剣菱が隠し味で使っていた幻の米”愛山”を、兵庫県の特A地区から入手していました。どの世界でも人脈は大切ですが、渡辺杜氏は昔やんちゃをしていたころに培った人間関係をつくる力で、強力なコネをもっておられるようでした。
160317 (15)農口酒造_愛山の心白
渡辺杜氏は”これから伸びる米”として、愛山に強い期待を抱いていました。米粒をみせて頂きましたが、山田錦よりも大粒で心白も大きく、存在感のある外観でした。心白を確認するために”爪切り”を使用していたことがとても印象的でした。
160317 (17)農口酒造_稲
田んぼの土壌の違いや等外米の話なども伺うことができ、とても参考になりました。

★蔵内の見学
160317 (11)農口酒造_仕込み蔵入口
160317 (21)農口酒造_酒造場
続いて、仕込み蔵の中を案内して頂きました。まだ造りを行っていたので、一面にフレッシュな醪の馥郁とした香りが漂っていました。

160317 (22)農口酒造_もろみ
山廃純米のもろみ。通常は20日程度で搾れますが、山廃純米は28-29日程度かかるそうです。


160317 (20)農口酒造_酵母
酵母菌も見せて頂きました。日本醸造協会の14号系、7号系や秋田今野などを使用しているそうです。泡なし酵母(末尾が01)は本当に泡が立たないのかという質問をしたら、純粋培養して濃度を高めているため、泡がまったく立たないことはないとのことでした。

この後は、人生初の”酒造期間中の酒母室の中”も見学させて頂きました。
衛生管理に特に気を使うと思われる場所だけにいたく恐縮しましたが、酛立てという重要な工程で起きていることを実際に体感でき、とても感激しました。

続いて圧搾室や分析室などを案内して頂き、数々の貴重な体験をさせて頂きました。

渡辺杜氏は、どんな素人質問にも丁寧に答えてくださり、田んぼの土壌、原料米の流通経路、食事と酒の相性など、その範囲は日本酒造りに留まりませんでした。中学理科レベルの基礎知識から本に書いていない実務レベルの話まで、私の足りない知識をピンポイントで補ってくれるかのように、長い時間をかけて様々な角度から説明をしてくれました。多方面に造詣が深い方だと感じていたら、後に驚きのキャリアを歩まれていたことがわかりました。

★「俺は、日本一の酢をつくりたいんだ」
渡辺杜氏は、もとは東京の銀座で寿司を握られていました(経営もしていたと思われます)。良い酒を造るけど売れなくて苦労をしている酒蔵に発注を続けるなどして、厳しい時期のサポートや人間関係づくりもしてきたそうです。

渡辺杜氏が寿司屋をやめるきっかけとなったのは、300年前の江戸をテーマとしたNHKの番組でした。愛知県の知多半島にある江戸時代の寿司を再現した寿司屋(酢のメーカー?)を訪ねてその酢をなめたときに、衝撃を受けて「寿司屋をやめよう」と思ったそうです。そして、日本一の酢をつくりたいと思い、そのためには日本一の酒を造る必要があると考え、酒造界に身を転じられたそうです(米酢をつくるには、一度日本酒を造ってから、その酒に酢酸菌をはやして酢にする必要があります)。
 
このような経緯で杜氏になった人がいるとは夢にも思いませんでした。
お話を伺うほどに、その気風の良さに惹かれ、「この方が醸す酒を飲んでみたい」という想いが高まりました。

★渡辺杜氏の酒
事務所に戻り、最後に利き酒をさせて頂きました。

渡辺杜氏が求める酒質は「ストーン、カーン」。
口の中で待っていられない、喉の奥にストーンと入ってしまってさわやかっ!というような酒を狙って造っているそうです。

杜氏が1年目の時に醸した”会心の出来の山廃”を利かせて頂きましたが、まさにその表現通りの酒でした。

濃醇で端麗(淡麗ではありません)
力強いのに、きれいで爽やか

なんて美味いんだろう...

2本しか残ってないうちの貴重な1本を開けてくださり、そのお心遣いに感動しながらの利き酒でした。

渡辺杜氏は、良い酒をお手頃な価格で提供する事へもこだわりをもっていました。
(飲み手にとってはありがたいことです)。

四合瓶で1,350円の愛山純米(と山田錦の純米)・無濾過生原酒を購入して帰京し、酒好きが集まる席でふるまったところ、皆がその味わいに感激していました。

ブランドや知名度で選ぶ酒にもそれなりの楽しみがありますが、
造り手を知り、その魅力に惹かれて味わう酒には別格の満足感があります。

酒って”人が”醸すんだなぁ...

貴重な体験をさせて頂き、多大な感謝と心身ともに爽やかな酔いを感じながら、酒蔵を後にしました。

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テーマ : 日本酒の酒蔵見学
ジャンル : グルメ

プロフィール

Nomura Seiji

Author:Nomura Seiji
・お酒と薬膳理論の入門講座、飲酒教育
 nomuras.jimdo.com
・JSAワイン検定講師
・JSAワインエキスパート
・1971年生
・東京在住

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