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【見学】但馬杜氏の郷・杜氏館(兵庫・美方郡) - 日本一の源泉温度を誇る湯村温泉で、元杜氏の方の貴重なお話を伺う

岩手県の南部杜氏、新潟県の越後杜氏、兵庫県の丹波杜氏とあわせて日本四大杜氏に数えられる但馬杜氏[たじまとじ]のふるさとを訪ねました(但馬杜氏の代わりに、石川県の能登杜氏を数える場合もあります)。杜氏館は湯村温泉の中心地にあり、この辺り(旧・温泉町[おんせんちょう])を出身とする杜氏は「温泉杜氏」と呼ばれていたそうです。

日時:2016年9月14日(水) 15:00~16:20頃
場所:但馬杜氏の郷・杜氏館(兵庫県美方郡新温泉町湯98-3)
料金:無料

★アクセス
160914 (13)但馬杜氏の郷・杜氏館_外観
山陰の名湯・湯村温泉の中心地に但馬杜氏の郷・杜氏館があります。この日はJR姫路駅から約126kmの道のりを車で連れて来てもらいました。所要時間は約2時間です(播但連絡有料道路、山陰道、国道9号線経由)。東京都内から姫路駅までは東海道新幹線を利用しました(ひかり461号。東京駅7:03→10:50姫路駅)。

★杜氏館
160914 (15)但馬杜氏の郷・杜氏館_外観
杜氏館は湯村温泉の観光案内所(観光協会)と同じ建物にあります。
160914 (44)但馬杜氏の郷・杜氏館_注意書き - コピー
開館時間は10:00~17:00、お酒の販売と試飲は行っていません。入場は無料です。

★湯~たん
160914 (16)但馬杜氏の郷・杜氏館_湯〜たん
入口では湯村温泉のマスコット・キャラクター「湯~たん」がお出迎えしてくれます。湯村温泉の源泉「荒湯」から生まれた精霊で、夜な夜な寝ている人の布団の中に「湯たんぽ」をしのばせるそうです(うちにも来てほしい...)。湯村温泉のPR活動と、ピンクのタオル収集がマイブームだそうです。

★館内
160914 (19)但馬杜氏の郷・杜氏館_館内 - コピー
160914 (55)但馬杜氏の郷・杜氏館_半切など
杜氏館の館内には昔の酒造道具などが展示されています。元・杜氏の方が常駐されており、希望者にはガイドをしてくれます(5人の方が持ち回りで担当しているそうです)。

★但馬杜氏の就業先
160914 (22)但馬杜氏の郷・杜氏館_一覧1 - コピー
但馬杜氏の就業先。地元の兵庫県が多いようです。
160914 (23)但馬杜氏の郷・杜氏館_一覧2 - コピー
西日本が中心で山口県や四国の酒蔵で酒造を行う方もいらっしゃいました。
160914 (20)但馬杜氏の郷・杜氏館_三谷藤夫ボトル - コピー
但馬杜氏の名を冠した松竹梅・白壁蔵の「三谷藤夫」(宝酒造)のサンプル・ボトル。精米歩合60%の五百万石を使用した山廃純米酒です。松竹梅を醸す宝酒造(本社:京都市伏見区)は、兵庫県の銘醸地・東灘区にも蔵(白壁蔵)を構えており、今も吟醸酒など一部の酒を手造りで行っています。三谷杜氏は現役を引退して顧問についておられるそうですが、その名を冠した酒が今も造られています。三谷杜氏は、平成23年に厚生労働省の「卓越した技能者(通称:現代の名工)」に選出され、平成25年度(春の褒章)には「業務に精励し衆民の模範である者」を対象とする黄綬褒章を受賞されています。

★元・但馬杜氏にガイドをして頂くという贅沢
160914 (74)但馬杜氏の郷・杜氏館_ささらの実演
ガイドをしてくださったNさんは現在83歳。数多くの質問にも、長い時間をかけて丁寧に答えてくださいました。写真は「ささら」の使い方を実演してくださっているところです。Nさんは20歳くらいの時に(三谷杜氏と同じ)白壁蔵に2年つとめ、続く4年間は京都・伏見(大手筋)の蔵で製麹の主任を任され、42歳のときに石川県・加賀市の橋本酒造(大日盛の蔵元)で杜氏に就かれました(取引先の関係でご縁があったそうです。石川県の蔵には能登杜氏が派遣されるものだと思っていました...)。普段は地元で牛を飼い田んぼをつくる生活を送り、雪に閉ざされる冬の間は季節労働に出ていたそうです。家庭のご事情で50歳を前にして酒造界から退かれた後は、地元で農業一本の生活を送られてきたそうです。

★出稼ぎは酒造りに限らなかった!?
Nさんの最初の出稼ぎ先は、造り酒屋ではありませんでした。当初の2年間は、大和(奈良県)の豆腐屋で凍り豆腐を作る手伝いをしていたそうです。しかし、三谷藤夫さんなど酒蔵に行った人たちの、「酒は飲める、金は良い」、という話を聞き、酒蔵への出稼ぎに変わったそうです(杜氏の郷とよばれるところは皆が酒造りに行くものと思い込んでいました...)。終戦後の景気回復や、政府による酒造りの推進(酒税がほしい)などを背景に、まじめについていった人は次から次へと杜氏になっていったそうです。温泉杜氏は当初はそれほど多くなかったそうですが、Nさんの現役時代には130人くらいに増えていたそうです。
但馬杜氏が醸す酒の特徴について質問したところ、(但馬杜氏に固有の酒質があるというよりは、)国税局が毎年8月半ばに行う酒造講習で習ったことを基準に造っていたそうです。他にも、冬用の長靴の配給のお話(1クラスに3足が配られ、くじ引き?などで当たらなければ藁靴で過ごすことになる)など、昔の但馬の生活が目に浮かぶような貴重なお話を伺えました。

★昭和初期の杜氏名簿
160914 (50)但馬杜氏の郷・杜氏館_杜氏名簿
館内には過去の「杜氏就業先名簿」が残されていました。一番上に綴じられている(おそらく一番古い)ものは、なんと昭和17年度のものでした。これは、すごく歴史的価値のある資料では...
160914 (70)但馬杜氏の郷・杜氏館_名簿(地方別一覧) - コピー
杜氏の出身地と就業先の一覧。旧字体が使われていて趣きがあります。この年度は280名の方が、奈良県(86)、京都府(52)、大阪府、和歌山県(各45)などの酒蔵に就業されていたようです。
160914 (59)但馬杜氏の郷・杜氏館_S45就業先名簿
昭和45年の名簿には、案内をしてくださったNさんのお名前が掲載されていました。

★昔の広告(昭和40年代ごろ)
杜氏名簿には、昔の広告も掲載されていました。
160914 (63)但馬杜氏の郷・杜氏館_ムサシノ乳酸広告
「ムサシノ乳酸」(武蔵野商事、東京都中央区)
160914 (65)但馬杜氏の郷・杜氏館_種麹の広告
「丸福種麹」(日本醸造工業、東京都文京区)
「ヒグチモヤシ」(樋口松之助商店、大阪市)
160914 (66)但馬杜氏の郷・杜氏館_秋田今野ほか
「今井式簡易自動製麹装置」「自動あんか酛ヒーター」(佐々木本店、大阪市)
「秋田今野モヤシ」「コンパール石綿」(秋田今野商店)
160914 (67)但馬杜氏の郷・杜氏館_原野産業、川北工業所
ハラノの「特許H.L.D.(粉飴)」「水飴」「酵素ブドー糖」「葡萄糖」「結晶ブドー糖」(原野産業、愛知県)
「酒造用活性炭素」(川北化学工業所、大和高田市)
160914 (68)但馬杜氏の郷・杜氏館_菱六、上田
「菱六もやし」(菱六、京都市東山区)
「上田もやし」(上田伊兵衛商店、大阪市住吉区)
160914 (69)但馬杜氏の郷・杜氏館_今野モヤシ
醸造機器資材、公認酒類仲介(箕面崎商店、大阪市北区)
「今野モヤシ」(今野もやし、神戸市東灘区)

Nさんは、ヒグチ、コンノ、ヒシロクなどをよく使っていたと語られていました。

★但馬杜氏の信念と覚悟
160914 (62)但馬杜氏の郷・杜氏館_但馬杜氏の覚悟
杜氏名簿の裏表紙には但馬杜氏の信念と覚悟が記されていました。

『但馬杜氏の信念』
1.信用第一で責任を重んじたい
2.精勤できまりを正しくしたい
3.正直でまちがいをなくしたい
4.質素でむだづかいをやめたい
5.協力的で互助心をふかめたい
6.計画的で研究心をたかめたい
7.実行的で改良心をつよめたい

『但馬杜氏の覚悟』
私は私自身の信念で働きたい
私は私自身の良心で働きたい
  そこに本当の希望がわき
  本当の計画がたち
  本当の研究がすすみ
  本当の働きがうまれる
しかも明けても暮れても
お互全体が懸命の協力をうちこむとき
  愈々[いよいよ]能率があがり
  銘酒ができ
  信用が高まり
よろこびと感謝のうちに
ひとりで前身の途がひらけ
  勤続と昇進昇給のむくいをうける
たしかに但馬杜氏の生命力は
  信用第一の働きそれ一つのうちに生きて
これが但馬杜氏の覚悟であり
これが但馬杜氏の人生である

Nさんに「なぜ、この地が杜氏の郷になったのか」と質問したところ、「この辺で農業をする人は辛抱強い」というご回答でした。日本酒や焼酎の輸出推進をめざす『國酒プロジェクト』に、「(日本酒は)日本人の忍耐強さ・丁寧さ・繊細さを象徴」すると記されていますが、それはまさに杜氏や蔵人に求められる資質であることを強く感じました。

(参考)「國酒等の輸出促進プログラム」平成24年9月4日
”日本の「國酒」である日本酒・焼酎(泡盛を含む)は、米、水など日本を代表する産物を原料とするのみならず、日本の気候風土、日本人の忍耐強さ・丁寧さ・繊細さを象徴した、いわば「日本らしさの結晶」である。”(ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を愉しもう)推進協議会より)

★酒造り唄
160914 (32)但馬杜氏の郷・杜氏館_酒造り唄 - コピー
作業時に口ずさむ「酒造り唄」は、故郷を離れて厳しい仕事に励む杜氏や蔵人にとって、一種の心の支えでもあったそうです。温泉町の杜氏組合は、平成10年に酒造り唄保存会を結成し、伝統文化を後世に伝える活動をされています。
160914 (34)但馬杜氏の郷・杜氏館_米研ぎ唄 - コピー
米研ぎ唄。
160914 (33)但馬杜氏の郷・杜氏館_秋洗い唄 - コピー
秋洗い唄。

★昔の酒造道具など
<こしき>
160914 (47)但馬杜氏の郷・杜氏館_こしき
米を蒸す際に使われたこしき。

<蛇管[じゃかん]>
160914 (76)但馬杜氏の郷・杜氏館_蛇管
火入れ(加熱殺菌)に使われていた蛇管。お湯の入ったタンクの中に蛇管を入れ、管の中に酒を通して加熱殺菌を行っていたそうです。

160914 (48)但馬杜氏の郷・杜氏館_一斗瓶
一斗瓶。

<浜坂醸造の提灯>
160914 (54)但馬杜氏の郷・杜氏館_浜坂酒造の提灯

★原料米
160914 (53)但馬杜氏の郷・杜氏館_酒米の穂 - コピー
兵庫北錦(酒米)、五百万石(酒米)、コシヒカリ(食味米)の穂。
160915 (11)但馬杜氏の郷・杜氏館_亀ノ尾8分3厘磨き
漫画「夏子の酒」に登場する幻の米「龍錦」のモデルとなった「亀ノ尾」。精米歩合はなんと8.3%!?
160915 (12)但馬杜氏の郷・杜氏館_亀ノ尾2割3分と8分3厘の比較
左は精米歩合23%の亀ノ尾。重量精米歩合だと思われるので、見た目の違いはよくわかりませんでした。Nさんは「こんなことをされても処理に困る。砕米[さいまい]みたいなもの。(精米歩合は麹米と掛米の平均値となるので、)ここまで磨くと掛米をだいぶ黒くしないと」と仰っていました。吟醸造りに適した麹はやはり「突き破精」(針でちょっと突いたくらいの点々が米の芯まで届いたもの)で、細かい米だと粒全体が真っ白になる「ベタ破精」になってしまい、良い香りがでにくいそうです。「(ベタ破精は)甘酒にはよいだろうけど...」というお言葉がすとんと腑に落ちました。

★但馬杜氏の碑(薬師湯)
160915 (10)但馬杜氏の碑_但馬杜氏の郷碑(薬師湯)全景 - コピー
杜氏館から約200mのところにある薬師湯には、”但馬杜氏の郷”の碑があります。
160915 (5)但馬杜氏の碑__但馬杜氏の郷碑(薬師湯)正面 - コピー
160915 (9)但馬杜氏の碑__但馬杜氏の郷碑(薬師湯)碑文 - コピー

★湯村温泉
湯村温泉は、平安時代(848年)に開湯した歴史ある湯治湯です。町名は「新温泉町」(2005年に温泉町と浜坂町が合併して誕生)で、杜氏館を含む地域の地名はズバリ「湯」。町内には、”温泉小学校”や”湯交番”という名称の公共施設があります。
160914 (79)湯村温泉_荒湯 - コピー
杜氏館のすぐ近くにある「荒湯」の源泉温度は98℃(日本一)で、湧出量は毎分470L。荒湯では温泉卵をつくることもできます。
160914 (86)_湯村温泉_山上の夢
湯村温泉は1981年にNHKドラマ「夢千代日記」(吉永小百合主演)のロケ地となり、以来「夢千代の里」とも呼ばれています。母親の胎内で被爆し、余命2年を宣告された主人公の夢千代を演じたのは、女優の吉永小百合さんです。
160914 (87)湯村温泉_三好屋
ミシュランガイド兵庫2016特別版に掲載された三好屋。湯村温泉にある宿泊施設は24軒程度ですが、定員500名クラスの大型ホテルが2軒あるため、大きな温泉街の部類に入るそうです(Wikipediaより)。

(初稿)2016.11.18

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テーマ : 酒・歴史・文化に触れる旅
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Nomura Seiji

Author:Nomura Seiji
・お酒と薬膳理論の入門講座、飲酒教育
 nomuras.jimdo.com
・JSAワイン検定講師
・JSAワインエキスパート
・1971年生
・東京在住

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