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【見学】雄町米元祖岸本甚造翁碑、雄町の冷泉、岡山雄町郵便局 - オマチストの聖地巡り

現存する最古の酒米といわれる「雄町[オマチ]」の発祥地を訪ねました。オマチスト(雄町で造られた酒をこよなく愛する人)の聖地は”名水が湧く地”でもあり、米と水に恵まれた地が”良酒のふるさと”であることを実感しました。

日 時:2017年9月7日(木)11:00頃~
場 所:岡山県岡山市中区雄町

ルート(徒歩で約3km):
・JR東岡山駅
↓1.5km
・おまちアクアガーデン(雄町305-8)
↓70m
・岡山雄町郵便局(雄町134-4)
↓150m
・雄町の冷泉(雄町61)
↓100m
・雄町米元祖岸本甚造翁碑(雄町74)
↓1.4km
・JR高島駅


★宮下酒造から東岡山駅へ
170907 (85)東岡山駅
宮下酒造の見学後、JR山陽本線で雄町の発祥地の最寄駅へ(西川原・就実駅10:50→10:56東岡山駅)。雄町米を普及させた岸本甚造[きしもと・じんぞう]翁の石碑が目当てでしたが、付近に「雄町の冷泉[れいせん]」という名水が湧いていることを知り、米と水の名所をまとめて巡ることにしました。
どちらも東岡山駅と高島駅のほぼ中間地点にありますが、この日は道順がわかりやすそうな東岡山駅からスタートしました。


★東岡山駅からおまちアクアガーデンへ
170907 (88)東岡山駅_高島駅(新幹線のガード下)
東岡山駅の改札を出て右側に進み、線路沿いの県道384号を歩いて岡山方面へ。この日は雨が断続的に降っていましたが、新幹線のガード下に歩道があったので、あまり濡れずに移動できました。

170907 (89)雄町東停留所
今はなき「雄町東」の停留所跡。”雄町”という地名を見ただけでテンションが上がります。

170907 (90)Platz駐車場_雄町のふるさと
目的地の近くの大型スーパー(Platz)の駐車場には、「雄町米のふる里」という看板が掲げられていました。スーパーの中にも入ってみましたが、酒米・雄町の展示コーナーなどは特にありませんでした。

170907 (93)おまちアクアガーデンの横の田んぼ
Platzの手前を右折し、写真の十字路を左折すると、雄町の名水と親しむために造られた親水公園「おまちアクアガーデン」にたどり着きます。正面の田んぼの稲が雄町なのかどうかが気になりましたが、結局わかりませんでした...


★おまちアクアガーデン
170907 (109)おまちアクアガーデン全景
170907 (96)おまちアクアガーデン_水車
1985年(昭和60年)、この公園の西側約200mのところに湧く「雄町の冷泉」が環境庁の名水百選のひとつに選ばれました。おまちアクアガーデンは、この名水との親水を目的に平成9年に開かれた公園です。園内には水汲み場や足踏み水車、シーソーなどの遊具があります。
170907 (99)おまちアクアガーデン_水時計
園内の水時計。

170907 (100)おまちアクアガーデン_水汲み場全景
170907 (105)おまちアクアガーデン_給水場 - コピー
水汲み場の石には”雄町の稲の絵”が刻まれていました。この公園では「雄町の冷泉」の源泉と同じ帯水層から汲み上げた水が無料で提供されています。
170907 (107)おまちアクアガーデン_給水場の注意書き
こちらで汲んだ水は煮沸をしてから飲むことが求められています。他の訪問者のブログを読んでいると、そのまま飲んでいる方もいらっしゃるようでした。
170907 (103)おまちアクアガーデン_おまちの水
この水は岡山市内を流れる旭川上流からの伏流水が(旭川原から雄町まで連続している)礫質土層の帯水層を流下し、粘性土層によって被圧されて湧出するものと推定されています。

170907 (108)おまちアクアガーデン利用案内
おまちアクアガーデンへの入場は無料ですが、9時~18時の開園時間以外は施錠されます。休園日は、第1・第3金曜日。夏場は水遊びをする家族連れなどで賑わうそうです。


★岡山雄町郵便局
170907 (114)岡山雄町郵便局_外観
170907 (112)岡山雄町郵便局_局名
続いて、オマチストの会話に度々登場するスポットへ。オマチスト定番のQUIZネタ(?)、「雄町の地に実際に存在する施設は?小学校?警察?それとも・・・」の答えとなる”郵便局”。
170907 (115)岡山雄町郵便局_ポスト型のはがき
局内は普通の郵便局で、雄町米の展示コーナーなどは(付近のスーパーと同様に)特に設けられていませんでした。局名の入ったポスト型のはがきが販売されていたので、記念に購入しました(185円。東京都までの切手は120円)。


★雄町の冷泉 源泉
170907 (118)雄町郵便局から雄町の冷泉・源泉への道のり
郵便局の正面の小道を更に西方面に進み、「雄町の冷泉」の源泉へ。
170907 (137)雄町の冷泉・源泉への入口
170907 (121)雄町の冷泉・保存会の注意書き
写真の看板の手前の小道を左折し、少し進むと右側に源泉があります。

170907 (123)雄町の冷泉・源泉の全景
170907 (130)雄町の冷泉 - コピー
「雄町の冷泉」は、岡山藩・池田家の5代藩主・池田綱政公によって江戸時代の貞享3年(1686年)につくられました。藩主の御用水として使われ、備前国一の名水として知られていたそうです。

170907 (131)雄町の冷泉_由来伝説
「雄町の清水、炎天に滅せず、露雨に増さず、常に地上にあふれて田畑にそそげり。味はきわめて美味にして、然も深く軽きこと他の水と大いに異なれり。世に得難き良水なり」(『東備群村誌』)。

170907 (132)雄町の冷泉_源泉内部 - コピー
170907 (127)雄町の冷泉・源泉の取水口
源泉の汲水時間は7時~18時。取水者には維持運営のための協力金の寄付が呼びかけられています。住宅地の奥にある源泉は車などでのアクセスが不便であるため、前述のおまちアクアガーデンが近くにつくられたそうです。


★雄町米元祖岸本甚造翁碑
170907 (146)雄町米元祖岸本甚造碑_全景
170907 (149)雄町米元祖岸本甚造碑_碑名拡大
源泉を後にし、雄町米を普及させた篤農家・岸本甚造翁の石碑へ。

170907 (145)雄町米元祖岸本甚造碑_碑文拡大
1859年(安政6年)、備前国上道郡高島村雄町(現在の岡山市中区雄町)の岸本甚造氏は、伯耆大山(ほうきだいせん。現・鳥取県)への参拝の帰り道に、あぜ道に覆いかぶさるように頭を垂らすひときわ重そうな稲を見つけました。この稲穂を2本ほど譲り受けた彼は、雄町の地に戻って栽培・選別(純系分離)を重ね、1866年(慶應2年)に「二本草」と名付けた新種を選出しました。彼は「この稲を分けてほしい」という希望者に快く分配したため、二本草は県南部をはじめ広く一帯で栽培されるようになりました。米の名前もいつしか甚造翁の地元の名をとり「雄町(米)」と呼ばれるようになったそうです。

170907 (148)雄町米元祖岸本甚造碑_正面
雄町は9月上旬に出穂し、10月下旬に成熟する晩生[おくて]品種。大粒で心白の発現率がよいため、良質な酒造好適米として重宝されてきました。しかし草丈[くさたけ]が115cmと著しく長いため倒伏しやすく、収量性が低いこと、いもち病などの耐病性に弱いことなどと併せて栽培は困難とされています。昭和40年代には栽培面積がわずか6ha(出典によっては3ha)まで落ち込みましたが、岡山県の酒造会社などの尽力により、平成9年には430haまで回復・拡大しています。
雄町は”岡山県中部及び中部以南の花崗岩の崩壊した壌土もしくは砂壌土で、土壌が深く排水の良好な水田での栽培に適する”とされています。

170907 (142)雄町米元祖岸本甚造碑_背面
優れた酒造好適米であった雄町は各地で交配種として利用されました。山田錦や五百万石を含む酒米の約6割には雄町の血が受け継がれているとされています。百年以上も前に発見されて現在も栽培されている唯一の品種であるため、雄町は現存する最古の酒米といわれています。

170907 (154)岡山県の用水路 - コピー
石碑を後にし、宮下酒造に戻るため高島駅へ。写真は道中でみかけた剝き出しの用水路。ネットニュースなどで度々話題になっていましたが、夜間や増水時などは確かに危険だと思いました。


★高島駅から宮下酒造へ
170907 (158)高島駅(赤穂線・山陽本線接続)copy
高島駅から山陽本線に乗り、再び宮下酒造の最寄駅へ(高島駅12:25→12:28西川原・就実駅)。酒蔵のレストラン「独歩館」の開店までのすき間時間を効率よく使うことができました。宮下酒造では高島地区の雄町を使った清酒『極聖 高島雄町』シリーズを発売しています。


★姫路駅での角打ち
170907 (193)タツリキショップ_左雄町、→山田穂
独歩館での食事を終えた後は、18きっぷで大阪駅を目指しました。夜行バスの発車時間まで時間がたっぷりあったので姫路駅で途中下車し、前夜に続いて「タツリキショップ」(銘酒『龍力』で有名な本田商店のアンテナショップ)へ。
写真は雄町(左)と山田穂(右)の生酒の飲み比べ。山田穂の上品ですっきりとした印象に対し、雄町は濃醇でコクのある味わい。一口に生酒といっても香りも味わいもこんなに違うのかと改めて感動しました。
受け皿にこぼれるまでなみなみと注いでくれて、お値段は1杯なんと200円。近所にあったら毎日でも通いたくなるお店です。


★感想など
私たちが良い米(から造られた酒)を当たり前のように楽しめるようになった背景には、優れた篤農家や周囲の人々の尽力があることを再認識しました(亀ノ尾を創選した阿部亀治氏のふるさとを訪ねた時と同じ感動を覚えました)。
訪問前は雄町米発祥の地が岡山の山奥にあるようなイメージを持っていましたが、実際には岡山駅から普通列車で2,3駅というアクセスのよい所にありました。最寄り駅から目的地までも徒歩圏なので、岡山近辺を訪れる日本酒愛好家の方にはぜひお薦めしたいスポットです(雄町の冷泉と同様に、雄町米に関する案内板や展示コーナーなども整備して頂ければ嬉しいのですが...)。

追記:帰京後に、『純正雄町米特産之地碑』(岡山市中区四御神343-7)という石碑が別にあることを知りました。おまちアクアガーデン_の北東約2.0kmの辺りにあるそうです。


(初稿)2017.9.22


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ワイングラスで大吟醸を楽しむ!(東京・白鶴銀座スタイル)~日本酒道連盟の勉強会に初参加。ビルの屋上に実る白鶴錦の稲穂。

日本酒道連盟の勉強会にはじめて参加しました。同連盟は垰野兪[たおの-やすし]弁護士が発案され、総裁に竹田恒徳宮様を戴いて昭和63年に設立された日本酒の愛好会です。「お酒にも、(日本古来の文化である)華道・茶道と同様に『道』があってもよいのではないか」という趣旨のもとに、勉強会や懇親会、酒蔵見学などが行われています。

日時:2016年10月13日(木) 14:00~15:45
場所:白鶴銀座スタイル(東京都中央区銀座5-12-5白鶴ビルディング7階)
料金:4,000円(会員、ビジター同額)
参加:27名

★会場(白鶴銀座スタイル)
161013 (1)白鶴銀座スタイル(外観)
会場の「白鶴銀座スタイル」は、東銀座駅の近くの白鶴ビルディング7階にあります。兵庫県・東灘区に本社がある白鶴酒造が「銀座から日本酒文化の情報発信をする」ことを目的につくられた施設で、日本酒に関するセミナーやイベントが行われています。屋上の「白鶴天空農園」ではオリジナル酒米の“白鶴錦”が育てられています。

★勉強会の内容
①「白鶴銀座天空農園」見学
②日本酒基礎知識
③ワイングラスで大吟醸
④利き酒クイズ
⑤日本酒と料理の相性 

★白鶴天空農園
161013 (6)白鶴銀座スタイル_天空農園のかかし - コピー
7階のセミナールームで本日の予定などを確認した後に、階段で天空農園に移動しました。屋上に通じる扉を開けると、白鶴錦の稲穂と案山子[かかし]がお出迎えしてくれました。

161013 (18)白鶴銀座スタイル_屋上看板
屋上では、農園長の小田朝水さんが農園立上げの苦労話などをしてくださいました。

屋上で白鶴錦の稲を育てるというプロジェクトは、2007年6月にスタートしました。プランター100基と使用済みの酒樽40荷(樽は一度使うと廃棄する?)を屋上の空きスペースに配置し、社員5-6名で土づくりから始めたそうです。ビルの屋上での稲作は誰もが未経験だったので、試行錯誤の連続でした。最初はコンクリートの上にブロックを積み、防水シートをはって土を入れてみましたが、ふわふわして作業性が悪く、すこし引っ掛けただけでもシートが破れて水漏れしていたそうです(後に、アスファルトを地面に焼き付けることで解決しました)。土も当初はホームセンターで購入したものにJAの肥料を入れて使っていたそうですが、軽量で保水性がある屋上緑化型の土を何とか探し当て、土の深さが10センチほどの田んぼをつくれるようになったそうです。
「夜も明るい銀座での稲作は無理」という専門家もいたそうですが、屋上のネオンを22時に消すなどの配慮を重ねながら、なんとか9月頭の出穂を迎え、10kgちょっと(800株分)の稲の収穫にこぎつけたそうです。現在では、大体60kg、最高時で65-67kgの収穫ができるようになったそうです。

161013 (12)白鶴銀座スタイル_屋上(用具類)
稲作と並行して、白鶴銀座では醸造免許の申請準備も進めていました。2008年2月に小仕込み(試験醸造?)の免許を取得し、試行錯誤を重ね、2012年にようやく商品化にこぎつけたそうです。銀座の屋上で育った白鶴錦は、当初は“吟醸酒”、後に“大吟醸酒”に生まれ変わり、毎年30本が銀座のデパートで販売されているそうです(三越銀座店と松屋銀座店で15本ずつ。以前は松坂屋銀座店でも販売)。仕込みは毎年3月1日くらいに開始し、商品は5月に発売されます。大吟醸酒の販売価格は、税別10,000円(600ml)です。
日本酒道連盟の勉強会では、過去に銀座の白鶴錦を使ったお酒の仕込み体験と試飲を行ったそうです。

161013 (8)白鶴銀座スタイル_白鶴錦の稲穂 - コピー
収穫した米は銀座ビルの屋上で足踏み式の脱穀機を使って脱穀し、本社(農業試験場?)に送られて玄米にされます。後に、特定名称酒を名乗るために、全農パールライス八王子工場で穀物検定検査を受けますが、指定米以外では最高ランクとなる2等米を取得し続けているそうです。

161013 (11)白鶴銀座スタイル_屋上からの景色 - コピー
害虫については、「葉巻虫がよく飛んでいるけど見つけて手でつぶす程度。農薬を播くほどではない」そうです。近隣の紙パルプ会館でミツバチを飼っているため(銀座ミツバチプロジェクト)、なるべく農薬を使わないように配慮しているそうです。

屋上での農作業は、2009年より近隣の小学生にも体験してもらっているそうです。今年は10/25に60名ほどの生徒が来て白鶴錦の刈り取りを行う予定です。収穫した米は小学校に持っていき、おにぎりなどにして食べてもらうそうです。小田さんは「酒米は美味しくないと言われているけど、白鶴錦はおいしい。粒が大きくてもちもち感がある。小学生たちにとって、食べて初めて記憶に残ると思っている。地域密着の活動を目指している。」と仰っていました。

161013 (10)白鶴銀座スタイル_埼玉のくわい
屋上では白鶴錦以外にも、1都16県35品種ほどの植物が栽培されています。写真は埼玉県のくわい。年間を通じた屋上緑化を約束することで、中央区の助成金を得ているそうです。多い時はプランターで300ほどの植物を栽培しており、水やりだけでも2-3時間(朝の7時から9時ごろまで)かかるそうです。古いビルで屋上に貯水槽があるため、水圧が高い1階と違って、水やりに時間がかかるそうです。

161013 (19)白鶴銀座スタイル_お稲荷さん
屋上には商売繁盛を祈願するお稲荷さんも祀られていました。

<白鶴錦>
161013 (25)白鶴銀座スタイル_白鶴錦_純米大吟醸
白鶴錦は酒米の王様と呼ばれる「山田錦(母:山田穂×父:短稈渡船)」の兄弟品種です。山田錦と別のお米を交配した”子”や”孫”はたくさんありますが、山田錦と同じ父母を交配した”兄弟”の育種は初めてだったそうです。母の山田穂は、山田錦という優秀な子ができたため、昭和初期で栽培が途絶えていました。白鶴酒造は山田穂を60年ぶりに復活させることから始め、1995年に、山田穂と渡船(短稈渡船と同じ?)の交配品種の育種を始めました。そしてようやく、2004年に「白鶴錦」として品種登録申請・出願公表を行うに至りました。白鶴錦は現在、兵庫県と山口県(と銀座のビルの屋上)で育てられているそうです。
白鶴錦は、山田錦と比べて”背丈が短いため倒れにくい”、米粒や心白が大きい”、”タンパク質の量は同程度に低い”という特長を持ち、お酒にした時の味わいが”山田錦よりも深い”とされているそうです。
161013 (21)白鶴銀座スタイル_土壌 - コピー
山田穂の背丈は140cmもあり倒伏しやすかったため、山田錦は品種改良により130cmに抑えられたそうです。白鶴錦はさらに低い1mほどに抑えたため、より育てやすいそうです。山田錦は(背丈だけではなく)根も長かったと記憶していたため、屋上の深さ10cmの田んぼでは浅すぎないか質問したところ、根が横に張って一枚岩みたいになるため風にも強いとのご回答でした。

★日本酒基礎知識
161013 (5)白鶴銀座スタイル_セミナー資料など
屋上から7階のセミナールームに戻り、白鶴酒造の紹介と日本酒の講義を受けました。講義では、日本酒の原料、ラベルの読み方、日本酒の分類などのポイントを説明して頂きました。

★利き酒~ワイングラスで大吟醸
続いて、白鶴錦の純米大吟醸をテイスティングしました。
161013 (26)白鶴銀座スタイル_白鶴錦大吟醸とリーデルのワイングラス
「超特選 白鶴 純米大吟醸(白鶴錦)」Alc.15-16%、日本酒度+4、酸度1.4、アミノ酸度1.0、税別3,000円。
161013 (27)白鶴銀座スタイル_ワイングラスで大吟醸
使用するグラスは「リーデル大吟醸オーグラス」。リーデルは260年以上の歴史を持つオーストリアのメーカーで、世界で初めて”ブドウ品種ごとに”理想的な形状のグラスを開発しました。「大吟醸オーグラス」は縦長のボウル形状で、次のようなメリットがあるそうです。
①香りがわかる:ボウル型の形状で、香りが溜まり、上立ち香が強く感じられる。
②酒が見える:ガラス製で酒が光を通して見えることで、輝き(テリ・サエ)や色調、グラスを伝う酒の粘性あが見える。
③味の印象が変わる:ワイングラスは飲むときに顎が上がり、口径が広いので、酒が一直線に早く流れ込み、味わいの豊かさ、濃さが強調される。

レクチャーに従って外観を見たあとに香りを確認しました(まだ飲まないで下さいと何度も念押しがありました)。
まずワイングラスで香りをかぎ、続いてポリコップに酒を移します。後者だと香りがこもらずに逃げていってしまうそうです。
味わいも同様にワイングラスとポリコップで利き分けました。口径が広いワイングラスだと酒が一直線に奥まで流れ込んで舌の上にまんべんなく広がる一方で、ポリコップだと酒が口中の手前に落ちてしまい、味わいが奥まで伝わらないそうです。

ボウル型のグラスをテイスティングで使い慣れていないため、新鮮な体験でした。脚が付いているグラスと比べてスワリングがぎこちなくなってしまったので、ボウル型の取扱いにも徐々に慣れていきたいと思います。個人的には、大吟醸をブルゴーニュ型のゆったりとした脚付きのグラスで楽しんでみたいと思いました。

★利き酒クイズ
続いて、5種類の日本酒を利き分けるクイズがありました。
161013 (28)白鶴銀座スタイル_利き酒クイズ
①「大吟醸」Alc.15-16%、日本酒度+3、酸度1.3、アミノ酸度1.1。
②「山田錦」Alc.14-15%、日本酒度+3、酸度1.5、アミノ酸度1.2。
③「生貯蔵酒」Alc.13-14%、日本酒度+2、酸度1.2、アミノ酸度1.1。
④「樽酒」Alc.15-16%、日本酒度+1、酸度1.3、アミノ酸度1.3。
⑤「まる」Alc.13-14%、日本酒度+1、酸度1.2、アミノ酸度1.1。

下段の順不同のポリコップの酒が上段の何番に該当するかを利き分けます。まず、消去法で樽香のきいた④、酸味の強い②を消去し、残りの3種をじっくり利きました。香りが取りにくかったので、味わいのアタックと余韻の強弱を軸に判断したところ、なんとか全問正解できました。

★日本酒と料理の相性 
最後に日本酒と料理の合わせ方について説明がありました。

以下の「3つの基本形」がとても参考になりました。
①バランス:日本酒と料理の味の強さを合わせる。
②ハーモニー:日本酒と料理の両方がお互いに作用し、単品では得られない味になる。
③ウォッシュ:料理の後味や嫌味を日本酒で洗い流す。口の中がリフレッシュされる。

①は、甘い(濃い)味×甘口(濃醇)の酒、旨みが強い×濃醇な酒、塩辛み×辛口の酒
②は、酸味が強い×甘口の酒、香りが控えめ×吟醸タイプ、脂っこい×熟成タイプ
③は、脂っこい×淡麗タイプ
というように、組み合わせのコツをよく理解できました。

日本酒と料理の相性について、③のウォッシュ効果だけが語られたり、「料理の”邪魔をしない”酒がよい」、「料理が良い時は酒は二級酒でよい」という言葉を耳にするたびに寂しい思いをしていましたが、この「3つの基本形」を知って、日本酒と料理のマリアージュには無限の広がりがあることを再認識できました。

<本日のおつまみとの相性>
161013 (29)白鶴銀座スタイル_料理との相性
①ポテトサラダ×大吟醸→香りが控えめ×吟醸香(ハーモニー)
②ぶり照焼き×山田錦→塩辛さ×酒の酸味、魚の旨味×米の旨味(バランス)/生臭さ×キレのある味(ウォッシュ)
③やきとり×生貯蔵酒→タレの甘味・脂っこさ×すっきりとした味わい(ウオッシュ)
④ジャーマンポテト(カレー風味)×樽香→スパイシー×樽香(バランス)
⑤大根の田楽味噌×まる→タレの甘み×マイルドな味わい(バランス)

⑤はお店のご好意(?)によりローストビーフにグレードアップしたため相性の確認ができませんでした。しかし、女性講師の「⑤のまるは何にでも合います!」というナイスフォローが入り、楽しく食事と酒の相性を確認することができました。

★おみやげ
最後に、灘の白鶴酒造資料館で限定販売されている「白鶴蔵酒」をおみやげに頂きました。
「白鶴 蔵酒」Alc.17-18%、日本酒度+3、酸度1.9、アミノ酸度1.4。税別1,000円(500ml)。

★打ち上げ
勉強会の後は、「魚々十 銀座本店」での打ち上げに参加させて頂きました。粋に楽しく(たくさん)お酒を嗜まれる方々に囲まれて、とても楽しい時間を過ごすことができました。最後に、有志で新橋の「信州おさけ村」に流れ、立ち飲みで〆めました。

学びがあり、交流があり、とても有意義な一日でした。

[追記]
白鶴錦のお酒は白鶴酒造しか造っていないと思い込んでいたところ、なんと、「十四代」(山形県・高木酒造)でも取り扱っていました。ぜひ利いてみたいと思い値段を調べたところ、1升瓶で2万円超えばかりだったので諦めました... 白鶴錦のお酒をリーズナブルに楽しむには、白鶴錦を100%使用した純米酒の「灘の生一本」(税別1,170円)がおすすめだと思います(秋だけの限定販売品です)。

(初稿)2016.10.28

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【見学】亀ノ尾発祥の地(熊谷神社)と阿部亀治翁頌徳碑(八幡神社) - 漫画『夏子の酒』に登場する幻の米「龍錦」の発祥地へ

亀ノ尾の里資料館に続き、八幡神社[はちまん-]の阿部亀治翁頌徳碑[あべかめじおうしょうとくひ]と、”亀ノ尾発祥の地”である熊谷神社[くまがい-]を訪ねました。阿部亀治氏が創選した水稲の”亀ノ尾”は、尾瀬あきら氏の漫画『夏子の酒』に登場する幻の米「龍錦」のモデルです。


日時:2016年8月26日(金) 10:30頃~
場所:山形県東田川郡庄内町 [ヒガシタガワグン・シヨウナイマチ]
(八幡神社)小出新田ニタ縄29 [コイデシンデン・フタナワ]
(熊谷神社)肝煎丑ノ沢71 [キモイリ・ウシノサワ]
料金:無料
交通:車(亀ノ尾の里資料館-約3,9km→八幡神社-約20.5km→熊谷神社)


★八幡神社の「阿部亀治翁頌徳碑」
160826 (87)小出新田
資料館を後にし、約4kmほど北側にある小出新田の八幡神社へ。写真は小出新田のバス停。神社の近くには阿部亀治氏の生家があります(一般住居であるため見学はできません)。

160826 (88)八幡神社(阿部亀治翁頌徳碑)遠景
160826 (91)八幡神社の鳥居(阿部亀治翁頌徳碑)
阿部亀治翁頌徳碑は、八幡神社の境内にあります。頌徳は、徳をたたえるという意味です。

160826 (106)2八幡神社(阿部亀治翁頌徳碑と案内板の全景)
この頌徳碑は、阿部亀治氏が昭和2年(1927年)に藍綬褒章[らんじゅほうしょう](公衆の利益に寄与した者、または公共の事務に尽くした者に藍色の綬の記章とともに授与されるもの)を受章した際の記念として建立されました。除幕式には彼も列席しましたが、翌年に61歳の生涯を閉じています。
160826 (92)八幡神社(阿部亀治翁頌徳碑)案内板の説明書き
明治元年(1868年)、阿部亀治氏は小山新田の農家の長男として生まれました。彼は寺子屋くらいでしか教育を受けていませんが、独学で研究を行い、水稲の品種改良に取り組みました。明治26年(1893年)、彼は熊谷神社を訪れた際に冷害にも関わらず元気に育つ3本の稲を見つけ、それを品種改良した結果、「亀ノ尾」を生み出しました。

160826 (107)八幡神社(阿部亀治翁頌徳碑)石碑のアップ
毎年9月5日には顕彰祭が行われ、彼の偉業が讃えられています。
160826 (98)八幡神社(阿部亀治翁頌徳碑)背面の碑文
石碑の背面の碑文。


【余談】余目八幡神社と鯉川酒造
160826 (16)余目八幡神社の外観
亀ノ尾の里資料館に行く前にグーグル地図で探し当てた八幡神社を訪ねましたが、亀ノ尾の記念碑が見当たりませんでした。資料館に電話をして尋ねたら、そこは”余目八幡神社”で、記念碑のある八幡神社とは全く別の神社でした(しかも、その時は八幡神社と熊谷神社の記念碑を混同していました)。
160826 (21)鯉川酒造
160826 (20)鯉川酒造
遠回りをしましたが、間違えたおかげで、近くにある鯉川酒造の外観をみることができました。亀ノ尾を復活させた蔵としては新潟県の久須美酒造が有名ですが、上原浩氏(元酒類鑑定官)の著書『純米酒を極める』(初版、P78)には、「そのことの話題性を積極的に利用しようとは考えていないようだが、私の知るなかで、亀の尾の復活にもっとも熱心に取り組んでいたのは鯉川酒造である。」と言及されています。


★熊谷神社「亀ノ尾発祥の地碑」
160826 (113)最上川
八幡神社を後にして、南東約20kmのところにある熊谷神社へ。途中、最上川の川沿いの道を通りました。
160826 (114)熊谷神社への標識
熊谷神社への標識。

<熊谷神社>
160826 (117)熊谷神社への入口
熊谷神社への入口。冬季は雪に覆われるため、閉社期間が設けられています(1月6日〜3月31日。積雪量により変更)。
160826 (140)熊谷神社の鳥居
熊谷神社に守護神として祀られているのは、熊谷三郎兵衛[くまがいさぶろべえ]氏。江戸初期の慶安事変の際、由比正雪の高弟として、過酷な藩政に苦しむ人々を救おうと活躍した義民です。
160826 (145)熊谷神社の駐車場copy
鳥居の左側には2つの石碑が立ち、階段下の左側には亀ノ尾のミニ水田があります。

<石碑>
160826 (139)熊谷神社の石碑全景
160826 (134)熊谷神社の石碑の裏側
「亀之尾発祥乃地」の石碑と「水稲品種亀之尾由来」が刻まれた記念碑。

160826 (128)亀之尾発祥乃地の石碑
「亀之尾発祥乃地」の石碑。

160826 (135)熊谷神社_水稲品種亀之尾由来の記念碑
160826 (129)熊谷神社_水稲品種亀之尾由来の碑文
「水稲品種亀之尾由来」が刻まれた記念碑。

<亀ノ尾のミニ水田>
160826 (144)熊谷神社に奉納された亀ノ尾copy
11代当主の阿部耕祐氏から奉納された亀ノ尾の稲。
160826 (141)熊谷神社の亀ノ尾の稲
160826 (122)熊谷神社の亀ノ尾の稲copy
明治26年(1893年)9月29日、熊谷神社を訪れた阿部亀治氏は、神社付近の水田の水口(みなくち。水の取入口)に植えられていた稲の在来品種”惣兵衛早生”の中から、冷害にも関わらず倒伏していない3本の穂を見つけました(彼は、父の友人より「月山の雪解け水の冷たさに耐えて秋に立派に穂を実らせる水口稲(惣兵衛早生)がある」と聞き、ずっと気になっていたそうです)。持ち主からその穂を譲り受けた彼は数年にわたる研究を重ね、ついに「亀ノ尾」の創選に至りました。

160826 (119)熊谷神社_亀ノ尾発祥の地の説明書きcopy
ミニ水田の説明書きには、「このあたりの稲作りは大変で、冷水がかかり、昔の地名の旦那腰[だんなごし]と言う強風が吹く。なかなか稲はそだたない。今も旦那腰の強風が参道を通り抜ける」と記されていました。
この地には日本三大局地風(悪風)のひとつに数えられる「清川だし[きよかわだし]」が吹きおろし、今も農作物などに悪影響を与えることがあります。因みに、岡山県那岐山麓に吹く「広戸風[ひろとかぜ]」と、四国山地を吹きおろす愛媛県伊予三島付近の「やまじ風」が残りの日本三大悪風に数えられます。

160826 (147)庄内町の風力発電
庄内町(旧立川町)ではこの局地風を逆手にとり、小型風車による農業への利用(温室ハウスなど)を目的とした風エネルギー実用化実験事業や、科学技術庁が実施した風力発電の実験事業の受け入れなどに取り組んでいます。


★庄内町新産業創造館クラッセ
160826 (149)余目クラッセ
熊谷神社の帰りに、JR余目駅[あまるめえき]の近くにあるクラッセに立ち寄りました(熊谷神社から約22km)。米倉庫を活用した庄内観光の拠点施設で、館内には庄内町情報館や、アルケッチァーノの奥田政行シェフが監修するレストラン「やくけっちゃーの」、なんでもバザール「あっでば」、カフェ「余目製パン」などがあります。
160826 (151)余目製パンのももサンド
余目製パンの名物、ももサンド。みずみずしい桃の果肉と生クリームがたっぷり入って美味しかったです。
160826 (152)余目駅
JR余目駅は羽越本線[うえつほんせん]と陸羽西線[りくうさいせん]の接続駅。陸羽西線は「奥の細道最上川ライン」と呼ばれ、路線の大部分が最上川沿いを走ります。


★ランチ(ブリラーノ:庄内町余目三人谷地12-2)
160826 (154)ブリラーノ_外観
地元の方に薦められたイタリアン・レストラン「ブリラーノ」へ。余目駅から約450mのところにあります。お昼時で満席でしたが、20-30分ほどで席につくことができました。
160826 (155)ブリラーノ_ランチメニュー
ランチはサラダとドリンクがついて1,100円。メインはA、B、パスタの3品から選べます。
160826 (161)ブリラーノ_海の幸とミニトマト、バジリコのパスタ
海の幸とミニトマト、バジリコのパスタ。
160826 (163)ブリラーノ_白イチジクとくるみのチョコレートケーキ
デザートはなんと、7種類の中から選べます。写真は、白イチジクとくるみのチョコレートケーキ。

160826 (168)庄内町の水田
この後は、酒田市の酒蔵、オードヴィ庄内(余目駅から約15km)を訪ねました。道中には広大な水田が広がっており、この地が日本有数の米どころであることを実感しました。


(初稿)2017.8.17

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【見学】アルプス搗精工場(長野・大町) - 30台の精米機が立ち並ぶ巨大工場のスタッフはたったの5名!技術と効率化を極めた長野県酒造組合の精米システム

長野県の酒蔵(82蔵)の約9割が利用している共同精米工場を見学しました。
30台の精米機と36基の原料タンクが並ぶ巨大な工場のスタッフはわずか5名!
高度な機械技術と効率的な運用がとても印象的でした。
搗精[とうせい]とは、「米を搗[つ]いて精製する」、つまり、精米のことでした。

日時:2016年7月21日(木) 13:30~
場所:アルプス搗精工場(長野県大町市大字平1040の250番)
内容:自由見学(無料)、有料試飲
交通:18きっぷ(長野駅→北大町駅→東京23区内。1日あたり2,370円)

★アクセス
160721 (1)長野駅
この日は長野市内からJR篠ノ井線と大糸線の普通列車を乗り継いで目的地に向かいました(長野駅9:29→10:56松本駅11:19→12:22北大町駅)。
160721 (9)姨捨駅
160721 (8)姨捨駅
途中で”日本三大車窓”のひとつ、姨捨駅[おばすて-]に停車しました。標高551mの山の中腹にある駅で、善光寺平を見下ろす絶景が楽しめます。全国でも数少ないスイッチバック方式の駅としても有名です。
160721 (16)北大町駅_全景
最寄駅の北大町駅に到着。この区間はワンマン運転のため、電車のドアは(2両編成のうち)前方1両目しか開きません。単線の無人駅ですが、小さな待合室と、ホームの外に簡易WCがあります。ここから目的地まで約4.5kmの道のりを歩きました。
160721 (19)アルプス搗精工場_道端の精米機
道中で見かけた飯米用のセルフ精米所。酒造用とは構造も大きさも異なります。
160721 (21)アルプス搗精工場_遠景
ようやく工場の姿が(まだ遠い...)
160721 (26)アルプス搗精工場_東側
グーグル地図の通りに向かったら工場の裏手(東側)に出てしまいました。それにしても本当に大きなかまぼこ...

★見学概要
160721 (29)アルプス搗精工場_看板(見学自由)
館内の見学は自由かつ無料です(試飲は有料)。ただし、酒造期の10月~翌年3月(状況によっては4月)頃までは見学不可となるそうです。予約は不要ですが、事前に電話で開館しているかを確認するのが無難です。少人数の場合はガイドがつきませんが、この日はたまたま展示品のメンテナンスをしていたスタッフの方が質問等に答えてくださいました(実は、この道20年のベテランの方だったので、大変参考になるお話を伺うことができました)。工場のパンフレットはありませんが、館内には長野県の地酒に関する各種資料が揃っています。

以下、工場のデータ等は展示エリアの説明書き、スタッフの方のお話の他に、「アルプス搗精工場の建設―21世紀への希望の灯―」(丸山泰著。日本醸造協会誌Vol. 91 (1996) No. 9 P 610-615)を参考にしています。

★外観
○ 敷地面積:17,165㎡(5,192坪)、建築面積:6,624㎡(2,003坪)
○ セミナー棟(鉄筋コンクリート造2階建): 延床面積1,399㎡(423坪)
○ 工場棟(鉄骨造2階建): 延床面積6,634㎡(2,007坪)
160721 (30)アルプス搗精工場_外観(西側)
建物はセミナー棟と工場棟の2棟から成ります。酒米と心白(中心の白く見える部分)を誇張・簡略化したロゴが目立っています。
160721 (32)アルプス搗精工場_外観(南西)
西側の”セミナー棟”。鉄筋コンクリート造の2階建で、延床面積は1,399㎡(423坪)。吹き抜け部分は、高さが21m(通常の5階建て分)もあるそうです。1階には事務室、会議室、お土産コーナー、喫茶コーナー、酵母培養室、2階には120人収容の研修室、実験室、見学者ホールがあります。
160721 (102)アルプス搗精工場_外観南側2
東側の”工場棟”。鉄骨造の2階建で、延床面積は6,634㎡(2,007坪)。この辺りは最高2mの多雪地帯のため、かまぼこのような”丸屋根”を採用しています。柱が1本もない構造で、最高部は地上25m。天井に天窓を付けて自然光を十分とり込めるように設計されています。

★館内・エントランス
160721 (35)アルプス搗精工場_エントランス
エントランスをくぐると、陽光が差し込む吹き抜けのアトリウムがあります。枯山水のような中庭があり、まるで、コンテンポラリー・アートの美術館に来ているようでした。
160721 (90)アルプス搗精工場_松尾様
お酒の神様・松尾様をまつる神社もありました。

★アルプス搗精工場の歴史
160721 (91)アルプス搗精工場_建設銘
長野県は全国4位の総面積(13,585km2)を誇りますが、可住地面積はわずか24.2%。険しい山や峠に阻まれて交通の便がきわめて悪く、同県は長らく”陸の孤島”だったそうです。そのため、県下の清酒メーカー105社は、長野県酒造共同組合のもとに結束し、原料米の共同購入や共同精米を行なってきました。効率的な輸送のため、工場は稲作適地の5か所(木島、上田、佐久、大町、伊那)に分散して建設され、5工場は順調に利益を上げてきました。しかし、時が経つにつれて設備の老朽化、コスト増加、従業員の高齢化、高精白ニーズへの対応などの問題が出てきたため、工場をひとつに集約して合理化を一気に進める計画が生まれました(中央道・長野線の開通など、交通インフラの整備が進んでいたことも計画を後押ししました)。そして、1995年にアルプス搗精工場が完成しました。新しい工場のように見えましたが、すでに20年以上も活躍している施設でした。

★見学者ホール(アルプスホール)
160721 (52)アルプス搗精工場_アルプスホール2
2階では、ガラス窓越しに工場内部を見学できます(酒造期間ではないため、機械は止まっていました)。また、原料米や稲作の流れ、昔の酒造りなどの展示コーナーもあります。
160721 (51)アルプス搗精工場_アルプスホール
長野の酒造各社の展示コーナー。
160721 (41)アルプス搗精工場_酒蔵リーフレットのラック
ラックには各社のパンフレットが置いてあります。

★工場の模型
160721 (79)アルプス搗精工場_模型全景
模型の寄贈元は佐竹製作所(サタケ)。酒造用精米機などを製造するメーカーで、本社は広島県にあります。
160721 (63)アルプス搗精工場_精米機、タンク
工場内部は西側のガラス窓1面からしか見学できないので、内部の構造を知るためにこの模型が役立ちました。
160721 (77)アルプス搗精工場_荷受ホッパー、ABフィルター
工場での作業は自動化がかなり進められています。精米機はコンピューターによる自動制御。精白後の米を袋に入れてパレット(輸送用に使う簀の子[すのこ]状の台)に積むまでの作業も、パレタイザーというロボットにより全自動化されています。そのため、旧工場では数十名必要であった作業員が足許は5名で済むようになり、深夜の作業も無くなって、労働条件が大きく改善したそうです。

★竪型精米機
160721 (68)アルプス搗精工場_竪型精米機(タテ)
30基の竪型精米機が並ぶ姿は圧巻!機種は佐竹製作所の「DB25E型」で、年間処理量は20万俵(冬季のみ)。
160721 (76)アルプス搗精工場_竪型精米機(ヨコ)
酒造りには酒米(醸造用玄米)と一般米(水稲うるち玄米)の両方が使われますが、酒造用に関してはすべて竪型精米機を使っているそうです。コンピュータで最適に制御することで高品質な精米が可能になりましたが、年ごと・品種ごとに精米のパターンは異なるため、スタッフが各々のケースにつき1回目の精米の状態を見ながら、その後の設定を調整していくそうです(やはり、人間の係わる部分は完全に排除できないんだなぁ...)。

<参考>縦型精米機(竪型-):灘酒研究会さまHPの灘の酒・用語集より
”縦型研削型精米機は金剛砂[こんごうしゃ]等、高硬度の鉱物等で造られた回転するロール状砥石(金剛ロールと呼ばれる)で米の外層部を削り取る方式である。
精米機上部のタンクから自然落下する玄米を精米室の出口の抵抗板によって排出量を制限することで充満し、回転するロール状砥石に押しつけられ米が削られる。
精米室を出たところで「振動ふるい」により糠と分離され、再びバケットコンベアーで精米室の上にある米タンクに送り込まれ、繰り返し精米室を通る間に精米が進む構造になっている。
精米機の大きさは金剛ロールの直径で表わし、16インチのものを16型といい、他に18・20・22・25・26型などがあり、その性能はそれぞれ1、1.5、2、3、3.5倍の比率となっている。
(付記)金剛砂:不純物の多い砂質のコランダム、または、ざくろ石を粉末にしたもの。研磨剤に用いられます。

★竪型精米機の構造図
160721 (37)アルプス搗精工場_精米機構図図
飯米用で一般的に使われる「横型精米機」(金剛ロールを使用しないもの)とは根本的に構造が異なるそうです。
160721 (38)アルプス搗精工場_金剛ロール
”金剛ロール”の実物。このやすり面で米を磨きます。
160721 (39)アルプス搗精工場_金剛ロールアップ
金剛ロールの拡大写真。展示されているものは擦り減っていて使い物にならないそうです...

スタッフの方に精米機の大まかな仕組みを説明して頂き、イメージを少しつかむことができました。構造図を見ながら漠然と予測していたものとはことごとく違っていたので、お話を伺えてほんとうに良かったです...(「米はずっと金剛ロールの中で磨かれている?→実際は、機械の中を縦方向に循環」、「摩擦で熱を持つから冷却器が付いている?→ロール部分に入る米の量で調節するから付いていない」など)。
昔は自転車のギアのような構造(プーリー=Pulley=滑車)だったので磨くスピードを2段階しか切り替えられなかったそうですが、いまはインバーターを使って無限にスピードを調節できるそうです。スタッフの方が「これ以上の発展形はない(あとは機械を小型化するなど根本的な技術以外のこと)」と話されていたのが印象的でした。

★その他の機械設備
160721 (40)アルプス搗精工場_工場内部(タンク側)
他にも、工場内には4万俵以上収容可能な原料タンク(1本1,200俵収容)や様々な機械類が設置されています。
160721 (73)アルプス搗精工場_工場内部(原料の袋)

<機械設備>
○荷受けホッパー2基(能力玄米25t/h)
○玄米タンク12基(72t×12) 
○白米タンク:24基(72t×24)
※長野県酒造組合HPでは、原料米用が24基、白米用が12基と逆の表記。
○自動糠選別機:5種類に自動選別
○充填ロボット:1t詰フレコン、30kg紙袋に自動充填、パレタイザーでパレットに積む

★精米にかかる時間
160721 (80)アルプス搗精工場_70精米
長野県を代表する酒米”美山錦”の玄米30俵分の精米時間は、精米歩合70%(糠を3割除去)で12時間、59%で37時間、39%で80時間、35%で85時間もかかるそうです。この数字はあくまでも目安であり、米の硬さなどによって時間はばらつくそうです(80時間かかると思ったら、米がやわらかくて40時間で仕上がった等)。ほぼ機械化・自動化されているとはいえ、品種や収穫年等の違いにつき、各々の作業の基本形が固まるまでは人間の判断に委ねる部分が残るそうです(最初の3割くらいまでの精製の状態を見て後の処理時間等を調整するそうです)。米はやわらかいほうが磨きやすいと言われていますが、やわらかすぎてもまた難しいとのことでした。品種ごとの違いを質問したら、美山錦や山田錦はやっぱり使いやすい、ひとごこち(美山錦よりも大粒で心白発現率も高い長野県の酒米)は硬い系とのこと。(硬い米で思いついた)五百万石は?との問いには、うちには入ってこないとの回答でした。信州と越後をごっちゃにしてはいけないとちょっぴり反省...

★糠の種類
160721 (53)アルプス搗精工場_糠の分類
自動糠選別機により、糠は5種類に自動選別できます。館内には4種類の糠が展示されていました。明確な定義は無いそうですが、ざっくり分けると、”赤糠”は外側10%程度、”トラ糠”はその内側10%程度、さらに内側が”上糠”、”特上粉”となり、段々ときめが細かくなります。赤糠はキノコ栽培の菌床、トラ糠は家畜の飼料、上糠・特上粉は味噌・醤油・酢など発酵食品の原料として再利用されるそうです。
160721 (83)アルプス搗精工場_赤糠
赤糠のアップ。
160721 (82)アルプス搗精工場_特上粉
特上粉のアップ。

★長野県の稲作の流れ
160721 (59)アルプス搗精工場_稲作の流れ1
①育苗:良い種子を選ぶための”塩水選[えんすいせん]”や、種子消毒を終えた種子を水に浸して発芽を促進する作業が行われます。出芽し始めた籾は床土[とこつち]を入れた育苗箱(30㎝×60㎝×3㎝)に播種[はしゅ]します。中苗[ちゅうびょう]の場合、平均で80g~100g播き、30日~40日の育苗期間が過ぎてから田植えとなります。
②田植え:地形が多岐にわたるため(千曲川下流の標高300m地域から八ヶ岳山麓の1200mまで)、各地域の気象に合わせた田植えが行われます。期間は穂高町の5月初旬から、更埴市[こうしょくし]の6月下旬までと、1カ月以上の長期にわたります。
③草取りが終わって:田んぼに植え付けられた稲は光合成を盛んに行い、茎が増えます(分蘖[ぶんげつ])。最高分蘖期は、通常は6月下旬~7月上旬(作期年次によって異なります)。また、収量アップなどを目的に、出穂20~25日前に穂肥[ほひ]が施用されます。
④稲の花:開花は午前10時頃から始まり、12時頃には終了します(上の方から下の方に移っていきます)。一つの花が開いている時間は1~2時間。受粉が終了すると穂は閉じます。
⑤稲穂:光合成により生産されたでんぷんが、穂へ転流し蓄積されます。登熟の進行とともに、稲は黄金色に変わります。長野県は昼夜の温度格差が大きいため、登熟歩合の高い品質の良い米が生産できます。
⑥稲の刈り入れ:中生種では出穂後45~50日で成熟期を迎えます。以前は家族総出の稲刈風景が見られましたが、現在は機械化が進み、コンバインで収穫された籾は乾燥調製施設へ運ばれ、玄米にされます。

★昔の精米のようす
160721 (44)アルプス搗精工場_昔の精米のようす
昔の酒造りの工程を再現したミニチュアも展示されています。写真は精米のようす。作業は、水汲み、米洗い、放冷、酛摺り、添え仕込み、酒しぼりと続きます。
160721 (42)アルプス搗精工場_昔の水車による搗精
昔の水車による搗精のようす[説明書きより]:
(左)米搗きの立杵と横杵、(右)菜種油搾りの挽臼と六角篩[-ふるい]
秋里篩島「拾遺都名所図会」天明7年(1787年)刊、「井堤里玉川の流を以て水車[みずぐるま]をめぐらし、昼夜碓[からうす]を踏ませて米[よね]を精白[しらげ]にし、舂[うす]をまはせて菜種を挽きわり、あるはもろもろの粉を震[ふる]はせりけり。その車の工[たくみ]、他に異なり、これ皆水の勢ひにて「山海経」にいふ水伯神のちからなるべし」。

★試飲
160721 (93)アルプス搗精工場_試飲コーナー
1階の売店にあるカウンターでは長野の酒の有料試飲ができます。お猪口2杯で300円。お猪口はお土産として持ち帰りできます。
160721 (97)アルプス搗精工場_試飲銘柄
試飲アイテムはスタッフにより2種類が決められています。この日は以下の2銘柄で、未開栓のボトルでした。
①「今錦 純米吟醸」米澤酒造、精米歩合55%、Alc.16%。
②「秀峰アルプス正宗 純米吟醸」亀田谷酒造店、精米歩合59%以下、Alc.14%。
どちらも長野県産の美山錦を100%使用しています。
160721 (96)アルプス搗精工場_試飲
①はフルーティーな香りと力強い味わい、②はおだやかな香味で特に和食と合わせやすい印象。どちらも美山錦の純米吟醸ですが、酒にするとこんなにも違うんだと改めて思いました。

★大町温泉郷と酒の博物館
工場の約1.5kmほど北側(やや西寄り)には、大町温泉郷があります。日帰り入浴ができる施設の他に、「酒の博物館」もありましたが、残念ながら博物館は長期休業中でした。

★帰路
160721 (109)アルプス搗精工場_帰路
帰路は北側の県道45号線経由で北大町駅まで歩いて戻りました。暑い中で農作業をしている方を見かけると、美味しい食材を提供してくれることへの感謝の気持ちが湧いてきます。
160721 (110)アルプス搗精工場_帰路・田んぼの青い稲
強い生命力を感じさせる青々とした稲。
160721 (111)アルプス搗精工場_帰路・小川
車がよく通る道路沿いでも、このようなきれいな小川が所々に流れていました。さらさらと流れる川のせせらぎと稲のそよぐ音が耳に心地よかったです。長い距離を歩くのはしんどかったですが、周辺のテロワールのようなものを肌で感じることができました。

★感想など
精米は重要な工程ですが、竪型精米機は高価(1台2千万円くらい?)であるため、自社で保有している酒蔵は少ないと聞いていました。予備知識が殆どない状態ではじめて精米工場を訪れましたが、長野県がここまで合理的なシステムを築いていることに驚きました。原産地呼称管理制度の導入や、愛好家向けのきれいなリーフレットの作成など、ワインにも清酒にも力を入れている同県には今までも好感を抱いていましたが、この精米工場を見て、あらためてその力の入れ具合に期待を膨らませました。長野の酒への愛着がますます高まる工場見学でした。

最後に、米の単位(俵)や、水分量による重量の違いなどに興味を持ったので、調べてみました。

<参考>合[ごう](米・酒の単位)~ウィキペディアより
”日本では商取引での尺貫法の単位の使用は禁止されているが、今日でも、日本酒や焼酎の販売は主に1合(180ミリリットル)単位で行われている。また、1合の米は標準的な1食分の分量となっており、1合を量るための計量カップが広く使われている。
[米の一合の重さ]単位換算では米1俵 = 60kgであり、また1俵 = 4斗 = 40升 = 400合 であるので、割り算して1合 = 150g となる。キロに換算すれば、1kgの米は、6.6合強である。実測値は精米の状態により異なる。また水分含有量によっても変化する。古米は乾燥して水分が少ないので、新米より軽い。
・籾1合(約110g)→精製→生玄米0.5合(約78g)+ 籾殻0.5合(約32g)
・生玄米1合(約156g)→精製→生白米5/6合(約125g)+ 糠1/6合(約31g)(湿潤時の場合)
・生白米1合(約150g)→炊飯すると、体積・重量とも約2.2倍に増加する。約150gの白米1合を炊飯すると、約330gになる。” 

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Nomura Seiji

Author:Nomura Seiji
・お酒と薬膳理論の入門講座、飲酒教育
 nomuras.jimdo.com
・JSAワイン検定講師
・JSAワインエキスパート
・1971年生
・東京在住

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