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【見学】但馬杜氏の郷・杜氏館(兵庫・美方郡) - 日本一の源泉温度を誇る湯村温泉で、元杜氏の方の貴重なお話を伺う

岩手県の南部杜氏、新潟県の越後杜氏、兵庫県の丹波杜氏とあわせて日本四大杜氏に数えられる但馬杜氏[たじまとじ]のふるさとを訪ねました(但馬杜氏の代わりに、石川県の能登杜氏を数える場合もあります)。杜氏館は湯村温泉の中心地にあり、この辺り(旧・温泉町[おんせんちょう])を出身とする杜氏は「温泉杜氏」と呼ばれていたそうです。

日時:2016年9月14日(水) 15:00~16:20頃
場所:但馬杜氏の郷・杜氏館(兵庫県美方郡新温泉町湯98-3)
料金:無料

★アクセス
160914 (13)但馬杜氏の郷・杜氏館_外観
山陰の名湯・湯村温泉の中心地に但馬杜氏の郷・杜氏館があります。この日はJR姫路駅から約126kmの道のりを車で連れて来てもらいました。所要時間は約2時間です(播但連絡有料道路、山陰道、国道9号線経由)。東京都内から姫路駅までは東海道新幹線を利用しました(ひかり461号。東京駅7:03→10:50姫路駅)。

★杜氏館
160914 (15)但馬杜氏の郷・杜氏館_外観
杜氏館は湯村温泉の観光案内所(観光協会)と同じ建物にあります。
160914 (44)但馬杜氏の郷・杜氏館_注意書き - コピー
開館時間は10:00~17:00、お酒の販売と試飲は行っていません。入場は無料です。

★湯~たん
160914 (16)但馬杜氏の郷・杜氏館_湯〜たん
入口では湯村温泉のマスコット・キャラクター「湯~たん」がお出迎えしてくれます。湯村温泉の源泉「荒湯」から生まれた精霊で、夜な夜な寝ている人の布団の中に「湯たんぽ」をしのばせるそうです(うちにも来てほしい...)。湯村温泉のPR活動と、ピンクのタオル収集がマイブームだそうです。

★館内
160914 (19)但馬杜氏の郷・杜氏館_館内 - コピー
160914 (55)但馬杜氏の郷・杜氏館_半切など
杜氏館の館内には昔の酒造道具などが展示されています。元・杜氏の方が常駐されており、希望者にはガイドをしてくれます(5人の方が持ち回りで担当しているそうです)。

★但馬杜氏の就業先
160914 (22)但馬杜氏の郷・杜氏館_一覧1 - コピー
但馬杜氏の就業先。地元の兵庫県が多いようです。
160914 (23)但馬杜氏の郷・杜氏館_一覧2 - コピー
西日本が中心で山口県や四国の酒蔵で酒造を行う方もいらっしゃいました。
160914 (20)但馬杜氏の郷・杜氏館_三谷藤夫ボトル - コピー
但馬杜氏の名を冠した松竹梅・白壁蔵の「三谷藤夫」(宝酒造)のサンプル・ボトル。精米歩合60%の五百万石を使用した山廃純米酒です。松竹梅を醸す宝酒造(本社:京都市伏見区)は、兵庫県の銘醸地・東灘区にも蔵(白壁蔵)を構えており、今も吟醸酒など一部の酒を手造りで行っています。三谷杜氏は現役を引退して顧問についておられるそうですが、その名を冠した酒が今も造られています。三谷杜氏は、平成23年に厚生労働省の「卓越した技能者(通称:現代の名工)」に選出され、平成25年度(春の褒章)には「業務に精励し衆民の模範である者」を対象とする黄綬褒章を受賞されています。

★元・但馬杜氏にガイドをして頂くという贅沢
160914 (74)但馬杜氏の郷・杜氏館_ささらの実演
ガイドをしてくださったNさんは現在83歳。数多くの質問にも、長い時間をかけて丁寧に答えてくださいました。写真は「ささら」の使い方を実演してくださっているところです。Nさんは20歳くらいの時に(三谷杜氏と同じ)白壁蔵に2年つとめ、続く4年間は京都・伏見(大手筋)の蔵で製麹の主任を任され、42歳のときに石川県・加賀市の橋本酒造(大日盛の蔵元)で杜氏に就かれました(取引先の関係でご縁があったそうです。石川県の蔵には能登杜氏が派遣されるものだと思っていました...)。普段は地元で牛を飼い田んぼをつくる生活を送り、雪に閉ざされる冬の間は季節労働に出ていたそうです。家庭のご事情で50歳を前にして酒造界から退かれた後は、地元で農業一本の生活を送られてきたそうです。

★出稼ぎは酒造りに限らなかった!?
Nさんの最初の出稼ぎ先は、造り酒屋ではありませんでした。当初の2年間は、大和(奈良県)の豆腐屋で凍り豆腐を作る手伝いをしていたそうです。しかし、三谷藤夫さんなど酒蔵に行った人たちの、「酒は飲める、金は良い」、という話を聞き、酒蔵への出稼ぎに変わったそうです(杜氏の郷とよばれるところは皆が酒造りに行くものと思い込んでいました...)。終戦後の景気回復や、政府による酒造りの推進(酒税がほしい)などを背景に、まじめについていった人は次から次へと杜氏になっていったそうです。温泉杜氏は当初はそれほど多くなかったそうですが、Nさんの現役時代には130人くらいに増えていたそうです。
但馬杜氏が醸す酒の特徴について質問したところ、(但馬杜氏に固有の酒質があるというよりは、)国税局が毎年8月半ばに行う酒造講習で習ったことを基準に造っていたそうです。他にも、冬用の長靴の配給のお話(1クラスに3足が配られ、くじ引き?などで当たらなければ藁靴で過ごすことになる)など、昔の但馬の生活が目に浮かぶような貴重なお話を伺えました。

★昭和初期の杜氏名簿
160914 (50)但馬杜氏の郷・杜氏館_杜氏名簿
館内には過去の「杜氏就業先名簿」が残されていました。一番上に綴じられている(おそらく一番古い)ものは、なんと昭和17年度のものでした。これは、すごく歴史的価値のある資料では...
160914 (70)但馬杜氏の郷・杜氏館_名簿(地方別一覧) - コピー
杜氏の出身地と就業先の一覧。旧字体が使われていて趣きがあります。この年度は280名の方が、奈良県(86)、京都府(52)、大阪府、和歌山県(各45)などの酒蔵に就業されていたようです。
160914 (59)但馬杜氏の郷・杜氏館_S45就業先名簿
昭和45年の名簿には、案内をしてくださったNさんのお名前が掲載されていました。

★昔の広告(昭和40年代ごろ)
杜氏名簿には、昔の広告も掲載されていました。
160914 (63)但馬杜氏の郷・杜氏館_ムサシノ乳酸広告
「ムサシノ乳酸」(武蔵野商事、東京都中央区)
160914 (65)但馬杜氏の郷・杜氏館_種麹の広告
「丸福種麹」(日本醸造工業、東京都文京区)
「ヒグチモヤシ」(樋口松之助商店、大阪市)
160914 (66)但馬杜氏の郷・杜氏館_秋田今野ほか
「今井式簡易自動製麹装置」「自動あんか酛ヒーター」(佐々木本店、大阪市)
「秋田今野モヤシ」「コンパール石綿」(秋田今野商店)
160914 (67)但馬杜氏の郷・杜氏館_原野産業、川北工業所
ハラノの「特許H.L.D.(粉飴)」「水飴」「酵素ブドー糖」「葡萄糖」「結晶ブドー糖」(原野産業、愛知県)
「酒造用活性炭素」(川北化学工業所、大和高田市)
160914 (68)但馬杜氏の郷・杜氏館_菱六、上田
「菱六もやし」(菱六、京都市東山区)
「上田もやし」(上田伊兵衛商店、大阪市住吉区)
160914 (69)但馬杜氏の郷・杜氏館_今野モヤシ
醸造機器資材、公認酒類仲介(箕面崎商店、大阪市北区)
「今野モヤシ」(今野もやし、神戸市東灘区)

Nさんは、ヒグチ、コンノ、ヒシロクなどをよく使っていたと語られていました。

★但馬杜氏の信念と覚悟
160914 (62)但馬杜氏の郷・杜氏館_但馬杜氏の覚悟
杜氏名簿の裏表紙には但馬杜氏の信念と覚悟が記されていました。

『但馬杜氏の信念』
1.信用第一で責任を重んじたい
2.精勤できまりを正しくしたい
3.正直でまちがいをなくしたい
4.質素でむだづかいをやめたい
5.協力的で互助心をふかめたい
6.計画的で研究心をたかめたい
7.実行的で改良心をつよめたい

『但馬杜氏の覚悟』
私は私自身の信念で働きたい
私は私自身の良心で働きたい
  そこに本当の希望がわき
  本当の計画がたち
  本当の研究がすすみ
  本当の働きがうまれる
しかも明けても暮れても
お互全体が懸命の協力をうちこむとき
  愈々[いよいよ]能率があがり
  銘酒ができ
  信用が高まり
よろこびと感謝のうちに
ひとりで前身の途がひらけ
  勤続と昇進昇給のむくいをうける
たしかに但馬杜氏の生命力は
  信用第一の働きそれ一つのうちに生きて
これが但馬杜氏の覚悟であり
これが但馬杜氏の人生である

Nさんに「なぜ、この地が杜氏の郷になったのか」と質問したところ、「この辺で農業をする人は辛抱強い」というご回答でした。日本酒や焼酎の輸出推進をめざす『國酒プロジェクト』に、「(日本酒は)日本人の忍耐強さ・丁寧さ・繊細さを象徴」すると記されていますが、それはまさに杜氏や蔵人に求められる資質であることを強く感じました。

(参考)「國酒等の輸出促進プログラム」平成24年9月4日
”日本の「國酒」である日本酒・焼酎(泡盛を含む)は、米、水など日本を代表する産物を原料とするのみならず、日本の気候風土、日本人の忍耐強さ・丁寧さ・繊細さを象徴した、いわば「日本らしさの結晶」である。”(ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を愉しもう)推進協議会より)

★酒造り唄
160914 (32)但馬杜氏の郷・杜氏館_酒造り唄 - コピー
作業時に口ずさむ「酒造り唄」は、故郷を離れて厳しい仕事に励む杜氏や蔵人にとって、一種の心の支えでもあったそうです。温泉町の杜氏組合は、平成10年に酒造り唄保存会を結成し、伝統文化を後世に伝える活動をされています。
160914 (34)但馬杜氏の郷・杜氏館_米研ぎ唄 - コピー
米研ぎ唄。
160914 (33)但馬杜氏の郷・杜氏館_秋洗い唄 - コピー
秋洗い唄。

★昔の酒造道具など
<こしき>
160914 (47)但馬杜氏の郷・杜氏館_こしき
米を蒸す際に使われたこしき。

<蛇管[じゃかん]>
160914 (76)但馬杜氏の郷・杜氏館_蛇管
火入れ(加熱殺菌)に使われていた蛇管。お湯の入ったタンクの中に蛇管を入れ、管の中に酒を通して加熱殺菌を行っていたそうです。

160914 (48)但馬杜氏の郷・杜氏館_一斗瓶
一斗瓶。

<浜坂醸造の提灯>
160914 (54)但馬杜氏の郷・杜氏館_浜坂酒造の提灯

★原料米
160914 (53)但馬杜氏の郷・杜氏館_酒米の穂 - コピー
兵庫北錦(酒米)、五百万石(酒米)、コシヒカリ(食味米)の穂。
160915 (11)但馬杜氏の郷・杜氏館_亀ノ尾8分3厘磨き
漫画「夏子の酒」に登場する幻の米「龍錦」のモデルとなった「亀ノ尾」。精米歩合はなんと8.3%!?
160915 (12)但馬杜氏の郷・杜氏館_亀ノ尾2割3分と8分3厘の比較
左は精米歩合23%の亀ノ尾。重量精米歩合だと思われるので、見た目の違いはよくわかりませんでした。Nさんは「こんなことをされても処理に困る。砕米[さいまい]みたいなもの。(精米歩合は麹米と掛米の平均値となるので、)ここまで磨くと掛米をだいぶ黒くしないと」と仰っていました。吟醸造りに適した麹はやはり「突き破精」(針でちょっと突いたくらいの点々が米の芯まで届いたもの)で、細かい米だと粒全体が真っ白になる「ベタ破精」になってしまい、良い香りがでにくいそうです。「(ベタ破精は)甘酒にはよいだろうけど...」というお言葉がすとんと腑に落ちました。

★但馬杜氏の碑(薬師湯)
160915 (10)但馬杜氏の碑_但馬杜氏の郷碑(薬師湯)全景 - コピー
杜氏館から約200mのところにある薬師湯には、”但馬杜氏の郷”の碑があります。
160915 (5)但馬杜氏の碑__但馬杜氏の郷碑(薬師湯)正面 - コピー
160915 (9)但馬杜氏の碑__但馬杜氏の郷碑(薬師湯)碑文 - コピー

★湯村温泉
湯村温泉は、平安時代(848年)に開湯した歴史ある湯治湯です。町名は「新温泉町」(2005年に温泉町と浜坂町が合併して誕生)で、杜氏館を含む地域の地名はズバリ「湯」。町内には、”温泉小学校”や”湯交番”という名称の公共施設があります。
160914 (79)湯村温泉_荒湯 - コピー
杜氏館のすぐ近くにある「荒湯」の源泉温度は98℃(日本一)で、湧出量は毎分470L。荒湯では温泉卵をつくることもできます。
160914 (86)_湯村温泉_山上の夢
湯村温泉は1981年にNHKドラマ「夢千代日記」(吉永小百合主演)のロケ地となり、以来「夢千代の里」とも呼ばれています。母親の胎内で被爆し、余命2年を宣告された主人公の夢千代を演じたのは、女優の吉永小百合さんです。
160914 (87)湯村温泉_三好屋
ミシュランガイド兵庫2016特別版に掲載された三好屋。湯村温泉にある宿泊施設は24軒程度ですが、定員500名クラスの大型ホテルが2軒あるため、大きな温泉街の部類に入るそうです(Wikipediaより)。

(初稿)2016.11.18

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【見学】南部杜氏伝承館(岩手・石鳥谷) - 三大杜氏の筆頭”南部杜氏”の発祥地を訪ねて。

岩手県の石鳥谷[いしどりや]にある”南部杜氏伝承館”を見学しました。南部杜氏は、新潟県の越後杜氏、兵庫県の丹波杜氏(もしくは但馬杜氏)と並び称される”日本三大杜氏”の筆頭です。藩政時代に、石鳥谷の杜氏が代々「酒司[さかじこ]」(藩主の”御前酒”を造る藩庁公認の杜氏)をつとめていたため、この地が南部杜氏発祥の地とされています。

日時:2016年8月27日(土) 14:50~15:30頃
場所:南部杜氏伝承館(岩手県花巻市石鳥谷町中寺林第7地割17-2)
内容:自由見学、試飲
料金:400円

★アクセス
南部杜氏伝承館は、道の駅・石鳥谷の中にあります。最寄駅の石鳥谷駅(JR東北本線)からは、約1.4kmです。道の駅には他にも、“農業伝承館”や、“歴史民俗資料館”、地元の特産品を販売する“酒匠館”、郷土料理を楽しめる大型レストラン“りんどう亭”などがあります。

★南部杜氏伝承館
160827 (131)南部杜氏伝承館_外観
伝承館の建物は、岩手県玉山村で百数十年前に建てられた酒蔵を、石鳥谷町が譲り受けてこの地に移築・復元したものです。今では貴重な太い柱と梁、地元の土を使った昔ながらの土蔵造りの手法で仕上げられています。
160827 (133)南部杜氏伝承館_入館料
入館料は400円でした。
160827 (135)南部杜氏伝承館_杉玉
入口正面の壁には「南部杜氏の心」と書かれており、その脇には杉玉が置かれていました。

★展示の概要(1階)
160827 (145)南部杜氏伝承館_館内(1階)
館内は2階建てで、1階には”映像コーナー”の他に、”日本酒講座”や”造り酒屋の酒蔵にて”というテーマの展示物が並んでいます。
160827 (146)南部杜氏伝承館_仕込み桶
直径約2mの大きな仕込み桶。

★展示の概要(2階)
160827 (148)南部杜氏伝承館_階段
2階では”酒と人間のドラマをたどる”というテーマで、酒と肴、酒と健康、酒の雑学・エピソード、日本の酒・世界の酒の展示が行われています。
160827 (150)南部杜氏伝承館_南部藩の藩主の御前
南部藩主の御前の再現。一般的な大名料理をベースに南部藩の地域性を加味した料理が仕立てられています。

★南部杜氏(1階)
160827 (172)南部杜氏伝承館_菰樽
<南部杜氏の歴史>
・南部藩における本格的な酒造りは、17世紀中頃に領内に定住した近江商人と上方杜氏によって始められました。やがて地元南部の杜氏が続々と生まれ、酒造業はかなり早い時期に産業化したと言われます。酒造りがさかんになると「酒造株制度」(酒造業の認可制度)が施行され、藩内の造り酒屋には、公認許可料として御礼金[おれいきん]が課されました。17世紀末には藩内の酒造屋の数が一時300軒を超えたと記録されています。
・千把扱[せんばこき](脱穀機)の導入によって農作業が簡略化されると、(町人に加えて)農民が副業として酒造りに携わるようになりました。幕府は他領への出稼ぎを禁じていましたが、藩政時代末期から他領への出稼ぎがみられるようになります。「南部杜氏」とは、南部領からやってきた杜氏を他領の人たちが呼んだ名称です。

<伝説の名杜氏>
・稲村徳助翁(1819~1879):酒司を最後につとめた人物。南部流を完成させ、南部杜氏の祖先と言われています。
・鎌田伊代治[かまたいよじ](1859~?):秘伝の名酒造法を後世に残したと言われる名杜氏。

その他にも”酒造りの神様”と呼ばれた南部杜氏が数多くいたそうですが、ほとんどの名人が記録を残していないため、その技の再現が困難になっているそうです。

★杜氏の数(1階)
データ元により数値のばらつきはありますが、杜氏集団の構成数のイメージがつかめてとても参考になりました。

(a)H27.5末「南部杜氏・都道府県別・就職状況」(合計189名)
160827 (139)南部杜氏伝承館_都道府県別就職状況 - コピー
北海道(6名)から愛媛県(1名)や山口県(1名)に至るまで、九州・沖縄を除くほぼ全国に南部杜氏が在籍されている様子が伺えます。10名以上の在籍は、東北地方が岩手県(20名)、宮城県(16名)、福島県(12名)、青森県(11名)。関東地方が茨城県(16名)、千葉県(13名)、栃木県(11名)でした。

(b)H26.5末「各組織における杜氏数(日本酒造杜氏組合連合会)」(合計735名)
・南部杜氏:396名。南部杜氏協会:232名。
・越後杜氏:331名。新潟酒造技術研究会:105名。
・丹波杜氏:75名。丹波杜氏組合:34名。
・但馬杜氏:204名。但馬杜氏組合:45名。
・南但杜氏:9名。南但杜氏組合:3名。
・能登杜氏:87名。能登杜氏組合:75名。

(c)平成23酒造年度「現職杜氏総覧(都道府県・税務署管内別)」
各蔵元に在籍している南部杜氏の連絡先が閲覧できるようになっていました。

★杜氏の名前の由来に関する諸説(1階)
・平安時代に酒の保存容器として用いられた壺の名前(刀自[とうじ])より。
・古代に酒造りを行っていた女性の名前(刀自[とうじ])より。
・酒造りの名人「藤次郎[とうじろう]」の名前より。
・酒造りは神や神社と関係が深いため、刀自にかわり杜氏の字が用いられるように?

★南部杜氏の祭神(1階)
南部杜氏の祭神は、京都の松尾神社の大山咋尊[おおやまぐいのみこと]と市杵島毘売尊[いちきねしまひめのみこと]です。18世紀の初めに松尾神社から御神体を勧請[かんじょう]し、盛岡に神社を建立して領内の酒造神としたそうです。

「勧請」:「勧め請う」の意。 (1) 真心こめて仏に願って説法を請い、仏が永遠にこの世にあって人々を救ってくださるようにと請願するのが本来の意。 (2) 日本では、仏神の霊や像を寺社に新たに迎えて奉安することをもいう。引用:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

★酒の名言(2階)
・「君子微醺[びくん]を楽しむ」(孔子)
・「酒は恋を育てるミルクのようだ」(アリスト・ファネス)

★「万葉人の酒讃歌」大伴家持(2階)
験[しるし]なき物を思はずは一坏[ひとつき]の 濁れる酒を飲むべくあるらし
古の七の賢[さか]しき人どもも 欲[ほ]りせしものは酒にしあるらし
賢しみと物いふよりは酒飲みて 酔泣するしまさりたるらし
あな醜[みにく]賢しらをすと酒飲まぬ 人をよく見れば猿にかも似る
夜光る玉というとも酒飲みて 情[こころ]をやるにあに若[し]かめやも
価無き宝といふも一坏の 濁れる酒にあに益[ま]さめやも
酒の名を聖[ひじり]と負[おほ]せし古の 大き聖の言[こと]のよろしさ
なかなかに人とあらずは酒壺に 成りにてしかも酒に染[し]みなむ
生者[いけるもの]つひにも死ぬるものにあれば 今[こ]の世なる間[ま]は楽しくをあらな

★試飲(酒匠館)
160827 (173)南部杜氏伝承館_酒匠館(試飲)
伝承館の隣にある売店(酒匠館)では、4種の日本酒の試飲コーナーがありました。ただし、購入の検討を前提とした試飲となります。

★感想など
茨城県・潮来の愛友酒造千葉県・佐原の東薫酒造を見学した際に、今も南部杜氏が冬の間だけ酒造りのために岩手からやってくる文化が残されていることを知りました。また、灘の大手酒造会社でも、いまだに丹波杜氏が冬の間だけ遠方からやってきて、一部の酒を手造りで醸していました。世の中が豊かになり、すでに”出稼ぎ”は消滅していると思い込んでいただけに、強い衝撃を受けました(現在の季節労働は貧困を背景としたものではないでしょうが...)。将来的にはこの文化も消滅してしまうのでしょうが、家族と一時離れてまでも、故郷に伝わる卓越した酒造技術を他所で継承していこうという杜氏の心意気に改めて敬意を感じました。いまだに伝統的な慣習が一部で残されており、その文化に触れられることは愛好家としてとても幸せなことだと思いました。
展示物の中に「どれほど酒造りの方法が計算し尽くされたとしても、子供を慈しみ育てるように酒を造る杜氏の心や感性の代わりになれる機械はありません。」という文言がありました。やはり「酒は人が醸す」のだなぁとあらためて思いました。

(初稿)2016.8.31

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【見学】よしかわ杜氏の郷(新潟・吉川町) - 「米を削ればよいって風潮になっていますけどね...」

"18きっぷで行く新潟の酒蔵めぐり”の2日目。
1軒目は越後杜氏の聖地、吉川区にある”よしかわ杜氏の郷”を訪れました。
マンガ「夏子の酒」に登場する山田信介杜氏(じっちゃん。モデルは波瀬正吉氏)も吉川の出身です。

日時:2014年9月9日(火) 12:00頃~
場所:道の駅・よしかわ杜氏の郷(新潟県上越市吉川区杜氏の郷1番地)
内容:自由見学、試飲(ガイド無し)
料金:無料
交通:18きっぷ(新潟駅⇔上下浜[じょうげはま]駅ほか。1日あたり2,370円)

★アクセス
140909信越本線 _青海川駅(12)
JR信越本線で新潟市内から上越市方面へ。新潟駅6:42発→上下浜駅9:12着。
途中で”日本一海に近いところにある駅”、柏崎市の青海川[おうみがわ]駅に停車しました。大好きな駅のひとつです。
140909信越本線 (28)
最寄り駅の上下浜駅。よしかわ杜氏の郷までは約2.3km。のんびりと徒歩で向かいました。

★外観
140909よしかわ杜氏の郷 (4)
よしかわ杜氏の郷は”新潟県道30号新井柿崎線”沿いにある道の駅で、酒蔵が併設されています。

★吉川は”杜氏のふるさと”
140909よしかわ杜氏の郷 (5) 案内板c
吉川では元禄4(1691)年から酒造りが行われ、 以来近世を通じて旧よしかわ町域の27集落に酒造りを営む酒屋があったそうです。 現在でも多くの酒造技術者が居住しています。新潟県立吉川高等学校には全国でも珍しい”醸造科”がありましたが、残念ながら2003年に閉科、2008年に廃校となっています。実習で醸された酒は「若泉」の銘柄で出荷されていたそうです。

★観光酒蔵
140909よしかわ杜氏の郷 (31)
売店の奥に醸造施設があり、製造工程に沿って設備等をガラス越しに見学できます。

①洗米・浸漬
140909よしかわ杜氏の郷 (25)①洗米・浸漬

②蒸米
140909よしかわ杜氏の郷 (24)②蒸米

③麹・酒母・醪
140909よしかわ杜氏の郷 (17)③麹・酒母・醪

④上槽
140909よしかわ杜氏の郷 (15)④上槽

⑤壜詰
140909よしかわ杜氏の郷 (14)⑤壜詰

★昔の酒造道具
140909よしかわ杜氏の郷 (21)ささら
<ささら>道具を洗ったり、用具の底などに残ったカス等を払ったりする際に使用する。
140909よしかわ杜氏の郷 (11)暖気樽・ためc
<暖気樽>だきだる。中にお湯を入れて、醪の中に入れて熱を与える道具。
<ため>水や蒸米、麹などを運ぶ道具。
140909よしかわ杜氏の郷 (20)麹蓋c
<麹蓋>こうじぶた。麹造りの道具。蒸米に種麹(麹菌)をふりかけ、切り返し後に、この蓋に入れ、何段かに積み重ねて麹菌を繁殖させる。

★酒造り唄
140909よしかわ杜氏の郷 (12)酒造り唄c
<説明文より>酒造りの工程の中で、職人たちによって作業しながら歌われる、日本の代表的な仕事唄。『半唄給金(=酒造りの給金の半分は歌うため)』は、酒造りの工程の中で、「唄」と「歌うこと」がいかに重要かを意味する言葉。機械化や時計の普及で歌う必要性がなくなり、現在では消えつつある。

★原料
①酒米
140909よしかわ杜氏の郷 (13)酒米c
吉川区は南魚沼と地続きの地質で、コシヒカリの名産地として有名です。酒米では良質な”五百万石”を産出し、標高300mの山地の棚田では”永田農法による山田錦の栽培”も行われています。酒米の王様・山田錦の産地は兵庫県が有名ですが、吉川区は栽培の北限になるそうです。以下は、HPより抜粋した文章です。

”肥料と水を極力使わずに、本来の生命力をよみがえらせて育てる稲は、普通の稲より背丈も低く、穂の数も少なくなりますが、細いひげ根を大量に発達させて地面から栄養を吸収し、おいしさのぎゅっと詰まったお米を実らせるのです。
糖度は高いのにお酒の雑味の原因となるタンパク質が少なく、また、硬いために磨きやすいという、酒米として最高の品質のお米になります。根本まで陽の光が届くように普通よりも間隔を空けて稲を植え、また、穂の数も少なく当然収量は少なくなります。 さらに、その土地、その土地で違う作り方が必要な農法なので、毎日稲の様子を観察して、必要な措置を行ったり、健全な根を作りだすことで高品質なお米が出来るのです。”

②水
標高757mの尾神岳[おがみだけ]の裾野に広がる”ブナ原生林”に蓄えられた雨や雪解け水が伏流水となり、その清らかな水を仕込み水として使用しているそうです。源流は年間を通じて8度という冷たさのため雑菌が繁殖せず、酒を劣化させる鉄・マンガンが少ないなどの特長があるそうです。

★「有りがたし」 - 精米歩合90%の純米酒
140909よしかわ杜氏の郷 (27)有りがたし
吉川産・永田農法の山田錦を100%使用し、米を約1割しか精白しない"精米歩合90%"で醸した酒。米の旨みがしっかりと感じられるふくよかでコクのある味わいで、個人的にとても好きなお酒でした。YK35(山田錦、きょうかい9号酵母、精米歩合35%で醸す酒)の言葉が表すように、米をたくさん削ることが良い酒を造る条件のように捉えられがちですが、スタッフ(蔵人さん?)の方が「たくさん削ればよいって風潮になっていますけどね...」とさらりと仰っていた言葉がとても印象的でした。新潟の酒は”淡麗辛口”のイメージが強いですが、HPの銘柄紹介文には”淡麗辛口とは全く正反対”と明記されており、”吉川杜氏”の強いこだわりを感じました。
「有りがたし」の名付け親は、コピーライターの糸井重里氏。以下はHPに掲載されていた同氏のコメントです。

”これだけたっぷりの天然の恵みをいただいて有りがたい、と言う気持ちが第一にありました。ありがたい、という言葉は、もともと「有り難し」。この酒が有ることそのものへの驚きが、表現されてます。 さらには、この酒をつくる人と時に対しての感謝も。そして、誰かに感謝の気持ちを伝えるときに、この酒を携えて行けたら、いいなぁと思いました。”

★「有りがたし」の熟成原酒
140909よしかわ杜氏の郷 (29)
「有りがたし」の原酒を3年熟成させたもの。吉川産・山田錦、精米歩合90%、Alc.17-18度、日本酒度-2、酸度1.8、杜氏:小池善一郎氏。甘・酸・辛・苦・渋の五味がはっきりと感じられつつもバランスよくまとまっていて、よく熟成したシェリーのように複雑で華やかな香味でした。ナッツのような香り、黒糖のような甘みが感じられ、「有りがたし」の熟成酒ならではの濃淳さと原酒の力強さが印象的でした。
ラベルの写真は、吉川区・泉地区の山田錦圃場[-ほじょう]。”霊峰・尾神岳を望む中山間地の圃場は、日の出から日没まで降り注ぐ陽光と海から尾神岳に向かって吹き上がる風に恵まれ、病害や虫害を寄せ付けない、頑健な稲を育む”そうです。

永田農法の山田錦、精米歩合90%、そして何よりも”吉川杜氏の誇りと酒造りへの強いこだわり”が感じられ、日本酒に対する興味が一層深まりました。吉川まで来て本当に良かった...

この後は、新発田市の市島酒造を訪ねました。

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テーマ : 日本酒の酒蔵見学
ジャンル : グルメ

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Nomura Seiji

Author:Nomura Seiji
・お酒と薬膳理論の入門講座、飲酒教育
 nomuras.jimdo.com
・JSAワイン検定講師
・JSAワインエキスパート
・1971年生
・東京在住

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